小説に書けなかった自伝 (新潮文庫 に 2-29)

著者 :
  • 新潮社 (2012年5月28日発売)
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本棚登録 : 144
感想 : 17
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人間の根源を見据えた新田文学、苦難の内面史。
昼働き、夜書く。ボツの嵐、安易なレッテル、職場での皮肉にも負けず。

本書は、気象庁職員にして直木賞作家であった新田次郎による赤裸々な自伝である。新田次郎というと、武田信玄に代表される、歴史作家というイメージが強かったが、創作初期は、山岳小説家であったという事がわかる。(本書を読むと、本人は山岳小説家と称されることを嫌っていたこともわかる)

学歴(東大卒、理学博士)が幅を利かす官界において、専門学校出身の新田次郎は、コンプレックスを抱く。自伝では、生活の足しにするため執筆活動を始めたとあるが、その鬱憤が創作活動へ駆り立てたのかもしれない。(巻末に収録されている、藤原ていや藤原正彦の回想から窺える)
人気作家となるものの、気象庁を退職することを余儀なくされる。これは、作家活動が睨まれたというよりも、当時の役所の人員構成の問題があり、後進に道を譲る事を求められたといえる。著者は辞めるまで葛藤する。このあたり、なかなか生々しい。

本書を読むと、新田次郎はかなりプライドが高かった事が窺える。その負けん気が、富士山気象レーダとなり、数々の作品を生み出したといえるが、一般的な好々爺とは程遠い、本書を、私は楽しく読めたが、好みは分かれるかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人物
感想投稿日 : 2012年6月25日
読了日 : 2012年6月25日
本棚登録日 : 2012年6月11日

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