傀儡后 (ハヤカワJA)

著者 :
  • 早川書房 (2005年3月24日発売)
3.14
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本棚登録 : 278
感想 : 36
4

物語の舞台は、20年前に守口市を中心に半径約6kmの範囲に渡り隕石のシャワーが降り注ぎ、壊滅的な打撃を受けた近未来の大阪。隕石落下地点からは謎の奇病「麗腐病」が蔓延し、落下地点近辺は厳重に隔離された危険指定地域「D・ランド」と呼ばれている。肉声を使わずコミュニケーションを取る若者たち、着るだけで外見だけでなく体型すらも変えてしまう全身スーツ、触覚を拡張する違法ドラック「ネイキッド・スキン」・・・退廃的かつ刹那的な快楽に満ちた異形の大阪に、彗星のように現れた天才的デザイナー・七道桂男。カリスマ的魅力を持ちながら悪い噂も絶えない彼の周囲で、様々な事件が起こり始まる。桂男の身辺を調査する謎の男や桂男に心酔する少年、気弱な探偵や訳知り顔の女。掴みどころのない謎に近づいて行く彼らの前で世界は加速度的に異形の度合いを増してゆき、そこに立ち現れるのは「傀儡后」と名乗る異形の女だった。桂男の狙いは、そして傀儡后の正体は?危険指定地域では何がおこっているのか?

これはひどい。 ←注:褒め言葉ヽ( ´ー`)ノ
ストーリーとしては破綻している、といって差し支えありません。謎が回収し切れていませんし、キャラクターの人物造形が首尾一貫していませんし、やたらアクの強いキャラ設定をしている割にはそれを生かし切れていません。登場する様々なガジェットの唐突感、派手な割にその後に繋がらない収まりの悪いエピソード、ストーリー展開上たいして必要性を感じない少年愛・性転換・アブノーマルなエログロ描写。何と言うか、作者の趣味がダダ漏れしている怪作です。

こうして印象を列挙してみると、ちょっと手に取る気にはなれそうにないのですが(^_^;、意を決して読んでみると、これが面白い!
ストーリー上の収まりの良さや納得感を期待しては行けません。そういう意味で、この作品は「SF」とは言えないかもしれません。が、そもそもストーリーはあって無きが如しの作品です。冒頭からぐいぐいと押してくるイメージの奔流、悪趣味全開でユーモアすら漂ってくる超個性的な筆致、そして特筆すべきは絢爛華麗でビジュアル感溢れる肉体感覚の描写。こうした雰囲気を楽しむのが、おそらくこの作品の正しい楽しみ方。ストーリーは二の次ではありますが、テーマは明確です。この作品は、「皮膚と世界を巡る物語」。自己と世界を峻別するツールとしての皮膚に着目する、その発想はまさにSFそのものです。

こうして印象を文章化してみて、改めて気づきました。これ、ワイドスクリーン・バロックそのものですね。
細かいことはつべこべ言わずに、イメージとアイディアの奔流に飲み込まれて気持ちよく酩酊せよ!というタイプ。扱われている題材自体は決して好きなタイプの作品ではないんですけど、忘れられない作品になりそうですわ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF(日本・長編)
感想投稿日 : 2015年6月13日
読了日 : 2015年6月5日
本棚登録日 : 2014年11月2日

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