収録作品は何れも今昔物語や源平盛衰記、宇治拾遺物語など平安時代の文学に題材を得て、芥川先生なりに解釈、脚色して新たな作品にしたもの。王朝物と言われている。
中でも一番出典が多い、今昔物語を題材にした作品は、平安時代の庶民や貴族でも凡庸な人物を扱った、人間味、生命力に溢れ、残酷さもあり、可笑しさもあり、魅力的な作品が多かった。
「羅生門」は災害続きですっかり寂れた都で、生きていく手段がなく、羅生門の所に佇んでいた男が、死体から髪の毛を抜いて鬘を作ろうとしている老婆を見て、その老婆から着物を剥ぎ取って自らの命を繋いでいく、生命力の残酷さが描かれている。
「鼻」「芋粥」はロシアのゴーゴリの「鼻」「外套」の影響を受けていると解説にあった。たまたま直前にゴーゴリの同作品を読んでいたので、比べることが出来た。なるほど、「芋粥」「外套」の主人公はどちらも最下級の役人で冴えない、貧乏で、常に周りから馬鹿にされている人物。その主人公が唯一拘ったのが「外套」ではロシアでの生活必需品の、〈外套〉で、「芋粥」では主人公にとっては贅沢な料理であった〈芋粥〉だった。「外套」では重苦しい気持ちになったが、「芋粥」は可笑しい、ほんわかした気持ちになることが出来た。
「好色」は〈天が下の色好み〉と噂された平の貞文が唯一自分に振り向いてくれない、美女侍従にとった行動が…!!いやあ、もうバカ殿です。こんな下品たお話が今昔物語にあり、それを芥川先生の上品な文章で皮肉っぽく書かれている時点で面白い。
今昔物語そのものを私が読むことはないと思うが、芥川先生の筆により再構築された平安時代の古典の世界を私は大事にしたい。そうやって、時代の途中の人がその時に受けた影響で解釈したり脚色したりしていけるのも古典の面白さかもしれない。
- 感想投稿日 : 2021年4月23日
- 読了日 : 2021年4月23日
- 本棚登録日 : 2021年4月23日
みんなの感想をみる