人工知能と経済の未来 (文春新書)

著者 :
制作 : 井上智洋 
  • 文藝春秋 (2016年7月19日発売)
3.57
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本棚登録 : 1425
感想 : 147
4

コロナ禍前の2016年に、気鋭の経済学者によって発表された本。当然ながらChat GPTのような生成AIが社会に出回る兆しも見られない頃の著書。
だからこそ、「便乗して書かれたのではない」古典的な説得力がある。
普通、最先端技術と経済に関する書は、少しでも古くなると記述内容の価値も激減してしまうことが多いように思われるが(もちろん記述の質や正確性によっても左右されるが)、
本書は、経済学者である著者の理念が前面に出ているとは言え、結果的にその予測通りに社会基盤の変化が加速している今、古典的に参照する書として大いに参考になると感じた。

新型コロナウイルスやAIについては、流言や都市伝説の類いも飛び交っていて、
それらの言説全体が怪しく見えてしまうような奇妙な状況になっている。
その話題に直接的には触れていないとしても、この2〜3年の間に刊行された書物に対しては(誠実かつ真摯に著述されているかたに対しては大変失礼で申し訳ない話だけれども)少なからず流言性や都市伝説性を疑いながら読み進めざるを得ない印象が拭えない。

著者の経済学者としての業績などはまったく知らずに私見を述べてしまっているが、
少なくとも記述内容は2024年時点での社会状況をそれなりに正確に捉えたものであり、
かつ上記のような「疑わしさ」に煩わされることなく読み進めることができる点は非常に評価に値すると思う。

星5にしても良かったけれども、綿密な分析を提示しないまま一部の仮説のみを頼りに大雑把な予測のみを提示した書である点を(わかりやすさを重視して意図的にそのように著述したのかもしれないが)一応、割り引いて星4つとした。
「大雑把」と言っても、説明自体は身近な例を挙げながら具体的で分かり易かった。
一般人向けに書かれているのだから当然と言えば当然だとも思う。良書。

個人的には、
全脳エミュレーション方式のものを含めてAIと捉えるのが自然だと感じるので、
その部分に妙に線引きしている点に関しては違和感が残った。
そもそも何をもってAIあるいは人格あるいは主体と呼ぶのか、ということ自体、
これから再定義したり哲学的に見直して議論を深める必要があるように感じられるので、
単純に「全脳エミュレーション方式のものを除外」する姿勢は短絡的過ぎる感は否めなかった。

最後に。
現在、なぜベーシックインカム制度の導入が進む気配がないのか。
・・・それは世相を観察すれば、自ずと見えてくることのようにも思われる。
そもそも人は合理的に動く生き物ではないし、目先の環境の維持も安定に固執する傾向が強い、
ということも少なからず影響しているだろうことは、想像に難くない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2024年1月13日
読了日 : 2024年1月13日
本棚登録日 : 2023年11月15日

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