昭和のレタリング風ロゴもウィリアム・モリスの想定も好きでハードカバーのまま残してる作品を10年ぶりに再読。
近年ますます喧しく言われる母娘問題。断罪するでもなく、放棄するのもなく、徹底的にそれと付き合い自らの人生と問題を明らかにした五十代姉妹がたどり着く境地を、なんとも赤裸々but清澄に描き切る。
主人公は妹のほう。わがままな母の世話と介護に明け暮れ、死を願いながらあっけなくそれがかなったときの無力感と疲労を描く前半。発覚した夫の不倫もあり、自分を見つめ直すために長期滞在した芦ノ湖畔のホテルで、ちょいとミステリ仕立てに進む後半。
『金色夜叉』に自らを重ねる無学な祖母、小説と映画の虚構におどらされ続けた母、『ボヴァリー夫人』の翻訳を夢みながらかなわなかった主人公…ときて、物語の描く恋愛に、ここではない世界に魂あくがれ出て、現実を直視しない人生は私にとってもひと事ではない。
また、こんなにひどい母親ではなかったけど、私もまた若いときには何もかも母のせいにし、今は娘が私を責める(笑)。
主人公と同じ50代になったからますますシミるわあ!
そして「書かれた言葉以上に人間を人間たらしめるものがあるとは思えなかった」にまた激しく首肯。
これが新聞小説として毎日連載され、また物語のなかで新聞小説がいかに明治女たちを現実に満足できぬ「近代人」を作り上げ(さすが漱石のひと)脈々と現代に続くかを描くという入子構造が見事。
憎み続けた母の遺産が、結局は自分を救うことになる構成が見事。
見事しか言えなーい。
そして、連載の終わりのほうで現実が東日本大震災を迎えたことで、ラストはあのようになったのだろう。小説家ってすごいな。
私も主人公の境地を目指し、自分で手に入れたもので好きなものに囲まれた暮らしをささやかに、満足して送りたい。途上にあって道を示してくれた。
- 感想投稿日 : 2021年8月21日
- 読了日 : 2021年8月21日
- 本棚登録日 : 2021年8月21日
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