すべての疲労は脳が原因 1 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社 (2016年4月15日発売)
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【一口感想】
 「あなたが感じるその疲れのすべての原因は、カラダやアタマじゃなく自律神経疲れだ」

【3行要約】
 ・カラダを動かすだけでも脳をめちゃくちゃに使っており、疲れたと自覚させられるのはカラダの疲れではなく、自律神経の中枢の疲れ
 ・アタマの疲れをカラダの運動で回復・リフレッシュさせることはできない。
 ・ポイントは、イミダペプチドとクエン酸の摂取と6時間以上の睡眠

【所感】

最近やたら疲れることが多くて、原因が睡眠不足にあることはわかっているのだけれど睡眠を確保し続けるだけで本当にこの疲れが回復するのか、疑心暗鬼になっていたところに書店で見つけてしまい即購入してしまいました。

自分はこの本をよむまでカラダの疲れとアタマの疲れはまったく別モノだと思っていて、もっというと、カラダの疲れは疲労回復できる食べ物をとって安息状態になれば休むことができ、アタマの疲れはカラダを動かしたりストレス解消することでリフレッシュし、その上で十分に寝れば良いと考えていました。しかし、脳科学の医学博士でもある著者の 梶本 修身 さんは、これらのうち睡眠をとること以外のほぼすべてを否定しています。

この本の中には数多くの「驚き」が含まれていますが、私が特に驚いたのは

 長時間の活動後に最も疲れるのはカラダやアタマではなく「自律神経」である

ここにつきます。

●自律神経の疲労は活動限界の知らせ

自律神経は、24時間、秒単位で心臓や横隔膜、体温の維持管理といったあらゆる恒常性の維持のための司令を送り続けているそうですが、そもそもこの自律神経はあまりにも多忙であるために、他の機能、内臓や脳などに比べても極端に活動可能時間が短いんだそうです。
 
人間が疲れを感じるとき、本当に筋肉や脳が疲れたから疲れたと感じているのではなく、実は自律神経への負担が重なって活動限界が近づいてきたので「疲れた」という感覚が得られるよう自律神経が信号を送って、活動量を下げるようにしているのです。風邪をひいたときや熱が出たときにダルさを感じるのも、これらとまったく同じ機能によって生じているのだそうです。

つまりその時点では体力や脳力の限界を迎えてはおらず、むしろ「自律制御力」が限界を迎えていることになります。当然ですが、その状態で体力や脳力がまだ残っているからと無理に運動や頭脳労働を続けても、それらを制御するための自律神経が機能しないため、まったくパフォーマンスを出すことができないわけです。

●発達しすぎた脳がもたらす疑似麻薬

しかももっと恐ろしいことに、人間は大脳が発達しすぎたために自律神経の疲労を感じなくさせてしまうことがあるそうで(これを「疲労感のマスキング」と呼ぶ)、これが起きる条件がかなりありがちで、とても危ない。。。。

 1) 同じ作業をずっと繰り返す
 2) 集中力を高めて作業にとりくむ
 3) 幸福感や意欲、達成感を感じるような状態

1)などは同じ作業によって苦痛を感じないように疲労感のしきい値をからだが勝手に上げてしまうからだそうで、慣れてくるとなんとも感じなくなるのですがそれがとっても危ない。

また2)のように、よく集中力をたかめるためにコーヒーやカフェイン飲料を取得したり、音楽やアロマオイルなどで雰囲気を作って連続作業に臨む場合がありますがこれも危険。単純に自律神経からの信号をごまかして作業を続けさせているだけです。疲労度が高まると情報入力の90%を占める視界を減らして自律神経を保護しようとするらしく、ねむくなったりするのもこの一環だそうですが、特に自動車を運転しているときなどはこの視界狭窄はかなり危険で、疲れを感じたり眠くなってきたら短い時間、それこそ5分10分でもいいので休憩し、自律神経を回復させるのは非常に効果的とのこと。

そしてこの中でも特に注目すべきは3)で、過労死や過労による心身の障害を受けた人の多くが達成感や幸福感のようなものを感じていたそうで、いくら満足感があるからといって長時間労働を繰り返すことは、自ら寿命を縮めに行っているようなもの。達成感や幸福感はもはや麻薬と同じだというわけです。

●自律神経の疲れを防ぐには?

自律神経はありとあらゆる「不随意運動」に対してコントロールを行っており、その限界を超えて活動を続ければ当然自律神経が壊れて恒常機能が失われます。菌に対する耐性だったり、回復能力だったり、自然治癒に必要となる能力にも多大な影響を及ぼします。結果的に、ありとあらゆる成人病、がん、突然死のリスクを飛躍的に高めることになります。

ではこれらを防ぐためにどうすれば良いのか?

いくつもの内容が本書には書かれていますが、ざっくりまとめていうと、

  適切な食事(内容・質・時間)
   と
  適切な睡眠(環境・質・時刻)
   をとり、
  脳のサインを絶対に無視しないようにする

たったこれだけのことで疲れはたまらず病気にもなりにくいといった、それはそれはあまりにも当たり前の内容になります。

自律神経の疲労回復には特効薬的な栄養素があり、それの1つが「イミダペプチド」で、これは鳥の胸肉に多く含まれており、しかも持続性が非常に長く効果が高いようです。量としては1日100gで十分。

また即効性がある栄養素としては「クエン酸」があり、こちらは疲れの元を回復するというよりも自律神経の活動に必要となるエネルギーをミトコンドリアから産出するための触媒になるようです。こちらはレモン2個、黒酢大さじ1杯、梅干し2個のいずれかで十分とのこと。

睡眠に関しては取り立てて特筆すべき事は書いておらず、やはり6時間以上の睡眠が必要であることや、交感神経や副交感神経のコントロールが重要である点、また「いびき」が睡眠による自律神経の回復の大きな妨げになっている点に触れられています。横向きで寝続けることが最も回復につながるというのは驚きで、いびきや睡眠障害の影響がでている人の多くは仰向け寝をしている人なんだそうです。また、休息には眠ることがもちろん重要ですが、自律神経が外部からの情報入力や不必要な指令の出力を断つことで休まるということを考慮すれば、真っ暗で静かな部屋で目をつむり、横になってじっとしていればカラダは休まる、という昔の人の言い伝えはある意味正しい、ということになります。

●さいごに

本書の内容は、まとめてしまえばすごく当たり前のことしか書かれていないわけですがそれを科学的に裏付けをし、根拠のある数字とともに事実を知らされたことであらためて、「健康を維持するためには食事と睡眠が大切!」と気付かされました。

本書にはコレ以外にも、世の中の疲れやその回復に関しての俗説や都市伝説を徹底的に否定している内容が盛りだくさんであり、そちらも気になるようであれば本編を参照してみると良いと思います。
ちなみにこの本には続編の2もあるのですが、1が原理的な部分に注目した内容に対し、2は実践方法が書かれた内容になります。2つも原理のサマリが書かれているので、面倒なことをすっ飛ばして今すぐ実践したい人は、いきなり2から読んでも大丈夫と思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年2月17日
読了日 : 2017年8月31日
本棚登録日 : 2020年2月17日

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