心理学の名著30 (ちくま新書 1149)

  • 筑摩書房 (2015年10月5日発売)
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 ちくま新書の〈30冊〉シリーズの中には、〔あくまでごく一部だが〕選書において「なんとなく、有名どころを30冊くらい選らんじゃおー」的な甘さが垣間見えるなか、本書は選択においてかなり真面目にバランスを実現しようと努力されていらっしゃる。

【メモ】
・96頁の書誌情報だけが日本語。もとが論文だからか。
・153頁は個人的に好み。脳みそ還元主義やトロッコ問題乱発に釘を刺している。
・187頁の書誌情報。
Erich Fromm, Escape From Freedom, 1941 (翻訳[新版]日高六郎訳、東京創元社、一九六六)
とあるが、わたし調べでは、邦訳は1965年のはず。


【目次】
目次 [003-006]
はじめに [007-011]

第1章 認知・行動領域――「ヒト」としての心理学 013
01 ジェームズ『心理学について』――近代心理学の土台となる思想 014
William James, Talks to Teachers on Psychology: and to Students on Some of Life’s ideals, 1989
哲学者西田幾多郎にも影響を与えた心理学者/意識は不断に流れている/心理学への様々な影響/『心理学原理』の余波/人間への飽くなき興味

02 ルリヤ『偉大な記憶力の物語』――記憶力が良ければ幸せか 023
А. Р. Лурия, Маленькая книжка о большой памяти (Ум мнемониста), 1968
同窓会でその当時に戻れるのはなぜ?/記憶の分類/特殊な記憶の持ち主/忘れることも立派な能力

03 スキナー『自由と尊厳を超えて』――新たな行動主義 030
Burrhus Frederic Skinner, Beyond Freedom and Dignity, 1971
行動を分類する/行動主義の誕生/罰に対して反対する/ジェームズからの影響/価値と文化の行動分析/死ぬという行動はオペラント行動

04 ノーマン『誰のためのデザイン?』――アフォーダンスの応用 039
Donald A. Norman, The Design of Everyday Things, 1988
ギブソンのアフォーダンス理論/デザインは記号の配置である/アフォーダンスをいかに応用するか/知覚の心理学を実社会で活かす/

05 セリグマン『オプテミスィトはなぜ成功するか』――無力感の研究から始まる楽観主義 046
Martin E. P. Seligman, Learned Optimism, 1990
無力感を学習するとは?/ポジティブ心理学の誕生/社会からも必要とされるポジティブ心理学

06 カバットジン『マインドフルネスを始めたいあなたへ』――自分らしく生きるための思考 054
Jon Kabt-Zin, Wherever You Go, There You are: mind fullness Meditation in Everyday Life, 1994
行動療法その第三世代の波/自分を深く知り世界と調和するために/いまここを重視する

07 ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊、ふたたび』――脳のなかの意識ではないもの 060
Vilayanur S. Ramachandran, The Emerging Mind, 2003
脳の中の混線と断線/数字に色がついて見える/ペンフィールドによる脳地図/言葉によって失った知覚

08 ダマシオ『デカルトの誤り』――身体と精神は別ではない 069
Antonio Damasio, Descarter’s Error/Emotion, Reason, and the Human Brain, 2005
「我思う故に我有り」は本当か?/神経心理学における有名な参加者たち/感情が欠落すること/有機体としての人間

09 トマセロ『コミュニケーションの起源を探る』――人は協力するために他人を理解する 078
Michel Tomasello, Origins of Human Communication, 2008
トルコと日本の協力関係/人は九カ月から社会の一員となる/子どもの心理学の歴史/「異なる視点」は人しかもたない


第2章 発達領域――「ひと」としての心理学 089
10 ビネ、シモン『知能の発達と評価』――教育のための適切な検査 090
(邦訳:中野善達・大沢正子訳、福村出版、一九八二)
知能検査と知能指数は違うもの/当時のフランスの状況/総合的判断を重視する知能検査/誤用される知能検査/検査することの権力性

11 フロイト『精神分析入門』――心理学と精神分析のつながり 097
Sigmund Freud, Vorlesungen zur Einfu hrüng in die Psychoanalyse, 1917
フロイトの前半期の総まとめ/独創的な発想/神経症の理解と治療/フロイト理論の魅力/新しい人間観としての精神分析

12 ユング『心理学的類型』――対立を乗り越えて 106
Carl Gustav Jung, Psychologische Typen, 1921
ユングとフロイトとの対立/フロイトとアドラーの違いから理論を見出す/タイプ論/単純であるがゆえに複雑なものを引き出す

13 ヴィゴーツキー『教育心理学講義』――心理学が教育にできること 116
Lev Vigotskiy, Educational Psychology, 1926
人間にのみある固有の機能/教育と心理学の関係/発達心理学者ピアジェ/手助けを借りながら学ぶ

14 ロジャーズ『カウンセリングと心理療法』――カウンセリングの可能性を開く 125
Carl Ransom Rogers, Counseling and Psychotherapy: Newer Concepts in Practice, 1942
誤解を受けやすいロジャーズ/児童相談所で多くの子どもと接する/あくまで援助するカウンセリング/グループワークを開発する

15 エリクソン『アイデンティティとライフサイクル』――人間の発達の可能性 134
Erik H. Erikson, Identity and the Life, 1959
エリクソンの不思議な生い立ち/児童分析が結実した『子ども期と社会』/「後漸成」という画期的な考え/「心理・社会的」発達の可能性

16 ギリガン『もうひとつの声』――他者への配慮の倫理 145
Carol Gilligan, In a Different Voice: Psychological Theory and Women's Development, 1982
道徳性心理学と発達心理学/ハインツのジレンマにいかに答えるか/ギリガンによる発想の転換/道徳的問題に対するジェンダーの違い/脳に還元せずに考える

17 ブルーナー『意味の復権』――意味から物語へ 156
Jerome Bruner, Acts of Meaning, 1990
認知革命の旗手/意味のない世界からの脱却/積極的に意味づけしていく存在としての「ひと」/ナラティブから文化へ/物語重視への転換(ナラティブ・ターン)の立役者

18 ハーマンス、ケンベン『対話的自己』――自己はたった一つではない 169
H. J. M Hermans. & H. J. G. Kempen, The Dialogical self: Meaning as Movement, 1993
自己とは自分のことではない/自己は複数存在する/箱庭療法とコンポジション・ワーク


第3章 社会領域――「人」としての心理学 177
19 フロム『自由からの逃走』――人間の本質とは何か 178
Erich Fromm, Escape From Freedom, 1941 (翻訳[新版]日高六郎訳、東京創元社、一九六六)
悪についての洞察/近代における人間とは/社会的性格という新たな概念/権威主義的パーソナリティの本質/自由とは何か

20 フランクル『夜と霧』――人生の意味を問いなおす  188
Viktor Emil Frankl, Ein Psychologe erlebt das Konzentrationslager, in trotzdem Ja zum Leben sagen, 1977
圧倒的な価値の源泉/人生の意味を見出す力/「私にしかできない何か」を問う/旧版と新版の違い

21 レヴィン『社会科学における場の理論』――ゲシタルト心理学の流れ 194
Kurt Lewin, Field Theory in Social Science, 1951
ゲシタルトの概念を取り入れる/動きのゲシタルト:なぜ光が動いて見えるのか/ゲシタルト心理学の展開/子どもには場の構造をとらえるのが難しい

22 マズロー『人間性の心理学』――動機づけを与えるために 204
A. H. Maslow, Motivation and Personality, 1954
よりよい生活を送るためのヒント/ピラミッド型の欲求段階/自己実現/心理学における手段と目的の取り違え

23 フェスティンガー、リーケン、シャクター『予言がはずれるとき』――人は都合よく出来事を解釈する 210
Leon Festinger, henry W. Recken and Stanley Schacher, When Prophecy fails, 1956
終末予言と認知的不協和理論/社会心理学者の奇妙な人生

24 ミルグラム『服従の心理』――誰もが悪になりうる 217
Stanley Milgram, Obedience to Authority An Experimental View, 1974
アッシュの集団圧力の実験/人は致死量の電気ショックを与えるのか?/悪の凡庸さを実験によって証明する/倫理的問いを抱える

25 チャルディーニ『影響力の武器』――ダマされやすい心理学者による提案 225
Robert Cialdini, Influence; Science and Practice, 1988
心理学は役に立つ?/勧誘のプロを研究する/心理学は悪用できるか?/どれだけ真剣に読めるか

26 ラザルス『ストレスと情動の心理学』――単純な因果関係を乗り越える 231
Richard S. Lazarus, Stress and Emotion: A New Synthesis, 1999
生理学からはじまる/各方面から研究されるストレス/ストレスとトラウマ/物語(ナラティブ)アプローチによるストレス理解/

27 ミシェル『マシュマロ・テスト』――性格は個人の中には無い 240
Walter Mischel, The Marshmallow Test: Mastering Self-Control, 2014
性格および性格を知るということ/性格理論が訴えることをひっくり返す/マシュマロ・テストとは何か/ホットシステムとクールシステム

第4章 心理学の展開 251
28 ロフタス『目撃者の証言』――記憶はどこまで信用できるか 252
Elizabeth F. Loftus, Eyewitness Testimony, 1979
目撃者の証言はどれくらい使えるか/記憶はいつも不安定/心理学の応用は法の現場からはじまった/記憶による証言をどこまであてにするか

29 ヴァルシナー『新しい文化心理学の構築』――普遍と個別を架橋する概念としての文化 262
Jaan Valsiner, Culture in Minds and Societies, 2007 (邦訳:サトウタツヤ監訳、新曜社、二〇一三)
文化と心理学の関係とは/「比較」文化心理学/「一般」文化心理学から見た文化/ディスコミュニケーションと自己の三層モデル/文化を扱うことの困難さ/複線経路等至性アプローチ

30 カーネマン『ファスト&スロー』――行動経済学の基本にある心理学的考え 272
Daniel Kahneman, Thinking, Fast and Slow, 2011
経済学者か心理学者か/分かりやすさを重視した二項対立/速考としてのヒューリスティックの発見/プロスペクト理論/ファスト思考(速考)も合理的な判断/自己・人生・物語・幸福

あとがき [282-286]

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 140.心理学
感想投稿日 : 2015年10月26日
読了日 : 2017年6月16日
本棚登録日 : 2015年10月26日

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