昨年からのマイブームのハンナ・アーレントの1929年出版の処女作。(なんと、当時、アーレント23才)
なんだかハマってしまったので、今年の目標の一つは、アーレントのすべての作品(死後に編集出版されたエッセーや公演記録、手紙、日記は除く)を読破すること。
まだ読んでない大著として、アーレントの政治思想的な主著「全体主義の起源」という3部作があって、これは読みかけて挫折したので、そこへの登坂ルートを考えているところ。
で、今、トライしようとしているのが、アーレントが書いた順番、つまり「アウグスティヌスの愛の概念」から初めて、「ラーエル・ファルンハーゲン」に進み、そこから「全体主義の起源」にアタックしようという試み。
というわけなのだが、処女作といっても、博士号取得の論文(指導教官は、ヤスパース)がもとなので、相当に難しい。
訳者によると、「本書は、難渋をもって知られるアーレントの諸著作の中でも、最も難解な部類にはいるだろう」とのこと。
アウグスティヌスは、ヨーロッパでは(哲学ではなく、神学として)さんざんに研究されている人で、その著作集は30冊くらいある。博士号取得の論文でそれを選ぶ時点で相当にチャレンジング。
そして、さらに、ハイデッカー、フッサール、ヤスパースと当時のドイツ哲学の最高峰の先生から直接の指導を受け、彼らの方法論、議論を踏まえたうえで、さらに、それを乗り越えようという意図をもっての本である。
学術的な本で、当時は無名の新人のジャンルを超えた試みが、出版当時、あまり評価されなかったのも無理ないかな。
素人的に読んでみて、アウグスティヌスに関する論文として、内容的にどこまで成功しているかは分からないし、議論が中途半端な終わり方になっている感じは残る。
しかしながら、「隣人愛」というところにフォーカスしながら、アウグスティヌスを読み進んで行くところに、その後発展するアーレントの思想の最初の形が確認できて、すごく刺激的だった。
特に、30年後の「人間の条件」(1958年)での議論に直結するものがたくさんある。たとえば、本書で「欲求としての愛」「創造者と被創造者」「社会生活」の3章で構成されているところが、「労働」「制作」「行為」の3分類に通じるところがあって、「死する運命にある人間という存在がいかに世界のなかに安らぎを見出すか」という問い、そして、その答えを孤立した1人の人間のなかに見出すのではなく、「人間の相互関係性、社会、公共性」みたいなところに見出して行こうという方向がすでに示されている。
世界、世界疎外、可死性、世界への愛、出生とか、アーレントの主要な概念の原型がすでにここにある。
ここから、約20年間、アーレントは、逮捕や収容所を経験しつつ、無国籍状態で、フランス、アメリカで亡命生活を送ったあと、51年の「全体主義の起源」で一躍注目されるのだが、こうした過酷な経験を通じての彼女の思想の一貫性、強靱性(レジリアンス)に驚く。
この本1冊で独立したものとして面白いかどうかは分からないが、アーレントの他の著作を読み解くための起点という観点からはとても役に立つし、刺激的。
それにして、23才で、この内容か。。。やっぱ、アーレントすごいや。。。
- 感想投稿日 : 2017年7月5日
- 読了日 : 2017年7月5日
- 本棚登録日 : 2017年7月5日
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