エリコの丘から (岩波少年文庫 56)

  • 岩波書店 (2000年7月16日発売)
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感想 : 11
3

大好きなカニグズバーグですが、図書館でなかなかこの一冊は手に取れなかった。
裏のあらすじを見て、穴におちる?元女優に頼まれて透明人間になり宝探し?サスペンスの謎解き?
私がカニグズバーグに求めている、リアルな少年少女の精神世界とはなんだか遠い気がして、敬遠していたのだ。

今回ようやく読んでみる。
出だしは面白いが、やはり地下世界(冥府?)に行って、タルーラと話すところで、へ?となり、フリーズ。
二つの事件の解決まで見て、ようやくタルーラの立ち位置がわかってスッキリ。
残る謎解きは楽しく、ドキドキハラハラしながら読み終えた。
主役の少女と少年の性格がうまい。
学校にいっぱいいる、クローン人間とはうまいこと言うなあ。
透明人間になることと、スターになること。
親子もみんな、親の役と子の役をそれぞれ演じている。
舞台、役者、人生。
タルーラの言葉がいい。
一見、シビアなことを伝えているようだけど、示唆に富み、結局は少女たちを励ましてくれる。
いぶし銀の奥にかすかに照らして見せる人生讃歌に、やはりカニグズバーグだ、読んで良かったと思えた。
謎解きの結末も明るくて、そこに安心できた。

私のなかではタルーラは、グレタ・ガルボか、デートリッヒみたいなイメージ。

やはりアンダーラインをひきたい箇所の嵐で困った。
以下に転記することでメモとしよう。

p9
去年、担任の先生から一滴の水のなかに住む微生物のスライドを見せてもらったけど、準成人映画の指定にしたほうがいいんじゃないのかと思った。だって、肉眼では見えない世界は、凶暴かつセックス満載、しかもそれを埋め合わせるような社会的意義はいっさいないのだから。

p16
(主人公の少女は偶然道で見つけた小動物の遺体を埋葬しようとする。そこに居合わせた少年マルコムが手伝ってくれる。葬式なので、短冊にこの生き物への弔いの詩を書いて、一緒に葬儀に使おうと提案する主人公。なぜ、と少年にきかれて)
「そうやって短冊に書いた言葉を届けるの。風でこすれて、太陽にあたって色あせて、雨で洗われて、詩は、この世界の一部になるってわけ。」

p20
(小動物の葬儀を終えて。今までは死体の空気を吸うと病気になると思い、呼吸を少なめにしていた主人公の独白)
松の穏やかな香りと、夏の仕事を終えて休憩中の葉っぱの甘い香りがする。深く息を吸い込んで、すばらしいこのにおいを全部吸い込んでしまいたい。(…)今日が何曜日なのか、何年なのか、教えてくれるものは何もない。二十世紀なんだとわかるものは何もない。薄らいでいく午後の光だって、夕暮れではなくてあけぼのの光なのかもしれない。

p27
(マルコムから、墓地に名前をつけようと提案される。ペット共同墓地にしようと言われたけど、当たり前すぎるし、あれらはペットじゃない、と主人公は却下する。)
「なんて呼ぶかは、わたしが考えるから。」
わたしは、そう言った。どうせ何か思いつくだろう、コカコーラみたいにぴったりで、IBMみたいに偉そうなのを。(…)
「この場所、エリコの丘と呼ぶことにしようよ。」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月11日
読了日 : 2023年4月11日
本棚登録日 : 2023年4月11日

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