これは★が10コくらい欲しい。
個人的には『銃・病原菌・鉄』よりも面白かったです。この本の主張は「昔は良かった、とみんな言うけれど、昔は悲惨だった」ということと「人類は交換によって繁栄し、これからも繁栄し続ける」ということの2点。これを上下巻で反論の余地もないほどネットリとクリティカルに展開していきます。マット・リドレーは、この人ほど「ネオリベ」という思想を体現している人はいないという感じです。日本ではネオリベが諸悪の根源のような捉えられかたをされますが、ネオリベ思想の究極は生命賛歌だ! と言うのが伝わってきます。
マット・リドレーは遺伝子関係の本を何冊も書いている科学ジャーナリストなので、自然の創発的な現象に重きを置いている。それが社会思想的にはネオリベと親和性が高いのだと思う。自由放任と個人主義によって、人間の繁栄は約束されるということを、歴史の分析を通じて照明していくところがスリリングです。「昔は良かった」というノスタルジーを「でも、平均余命は低かったし治安も悪かったし、労働も血を吐くようにきつかったよね」と徹底的に攻撃します。
「商業が発展するとモラルが生じる」という視点は、「衣食足りて礼節を知る」という話なのですが、それが(あの)ウォルマートにも当て嵌まるとき目からウロコが落ちると思います。
で、311後にこの本を読んだので、どうしても「日本は」と考えてしまいます。日本の現状は『繁栄』の主張に当て嵌まらないようで、実際は政府(官僚機構)の過剰な介入によって、繁栄が阻害されているのだなぁと思いました。アメリカのように国民保険がないのはちょっとどうよですが、日本のように政府があれもこれも、と手を伸ばして「財源がない」と増税に走るのはちょっと違うんじゃないかと。
- 感想投稿日 : 2012年4月11日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2012年4月11日
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