国盗り物語(四) (新潮文庫)

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  • 新潮社 (1971年12月22日発売)
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斎藤道三の娘婿である織田信長と、道三の妻の甥である明智光秀が対峙する完結編。「織田信長後編」となっているが、信長と光秀の双方が物語の主役と言って良いだろう。
文庫版の「解説」にも記載がある通り、光秀の描写がうまい。本作における光秀は、知識人で真面目な性格であり、そのため信長の苛烈な行動(例えば比叡山の僧や女の殺戮など)を憎み、部下を「道具」として有効に活用とする合理的な性格に怯える人物として描かれている。秀吉の「陽」と対比しながら光秀の「陰」を強調して描くことで、「本能寺の変」に繋がる伏線としている。
また、信長の人物像も明快で解りやすい。無神論者で合理的精神の持ち主、かつ有能で行動的な人物として描かれている。光秀のこざかしく思える口上に信長がいら立つエピソードを何度か挿入することで、両者は互いの能力を認めつつも性格上は相いれない存在であることを読者の意識に刷り込んでいる。こうした挿話を通して、天下を治めるという目的に向けて信長と光秀はまさに呉越同舟であったことが伝わってくる。そして、ほぼ天下を手中に収めようとした段階で、光秀は苦悩しながらも同じ舟から降りる選択をすることにした。これが司馬遼太郎の描く「本能寺の変」の発生要因だろう。
道三、信長、光秀という所縁のある3人の差別化を図りながら、巧みに心理描写をしたドラマティックな歴史小説であり、司馬作品の中でも良作と言える。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2020年2月27日
読了日 : 2020年2月27日
本棚登録日 : 2020年2月27日

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