虞美人草

著者 :
  • 2012年9月27日発売
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本棚登録 : 175
感想 : 15
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夏目漱石の小説は小中学校の国語の教科書で取り上げられている小説のように口語調で書かれたものばかりではない。「草枕」や本書のように文語調で書かれたものもある。これまでに読んだ文語調で書かれた漱石の小説は、理解できない言葉や文章に少なからず出くわし、ひっかかりひっかかり読み進めなければならない。それでも、会話と会話の間の登場人物の心理戦、自然、世俗、人物像の描写がとても面白い。この小説では会話における心理戦の描写と、「Aはイである。Bはロである。Cはハである」のフォーマットを繰り返し適用した世俗の描写が卓越している。Kindleでマーカーを引いたところ数知れずである。

本にはいろいろな楽しみ方があると思う。ストーリーを楽しむもの。僕はシャーロックホームズシリーズや山崎豊子の小説が好きだ。次に表現の美しさを楽しむもの。川端康成や夏目漱石の小説がいい。そしてストーリーと表現が一体となって作り出す世界観を楽しむもの。安部公房、江戸川乱歩(探偵物も書いているが奇怪・変態物がいい)、太宰治などを僕は愛読している。村上春樹は最近の性的描写が前面に出る傾向が受け入れられなくて読むのをやめてしまった。

「虞美人草」は美しい文が散りばめられた上に哲学・思想的会話が挿入され、更に会話と会話の間に心理戦が繰り広げられる。朝日新聞に連載していたということもあろう、即興の落語のようにこれらが繰り返されて最後の「オチ」でちょこっとした変化をつけてストーリーがようやく形づくられる。だからストーリーの印象は弱く、ストーリーからメッセージを読み取ることは難しい。途中の文章の中に共通して繰り返し繰り返し出て来る何かにメッセージが隠れているのかもしれない。その何かは分からないが、部分部分を味わうだけでも僕には十分であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月11日
読了日 : 2014年9月22日
本棚登録日 : 2023年12月11日

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