かわいい結婚 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2017年6月15日発売)
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本棚登録 : 963
感想 : 74
4

表題作をふくむ全3篇収録の短篇集。どの作品もとってもおもしろいです。どちらかといえば、女性向けなのかもしれませんが、オトコの僕が読んでもすごく楽しめました(まあ、僕はオトコとしてのマジョリティであろう「性欲原理で女性を見てばかりのタイプ」や「男尊女卑タイプ」では、どちらかといえばないからかもしれません)。

頭にも胸にも特に響いたのが『悪夢じゃなかった?』という作品。カフカの『変身』のパロディから始まります。ある朝目覚めると、主人公の男が若くグラマラスな女に変身している。
この主人公は、たとえば「女性専用車両に乗るのは本当の女じゃない、ブスとババアだけで、彼女らは女ではない」というような考え方をしている。そればかりか平然と、恋人にもそう言ってしまう。性欲でしか女性を見れていないような次元にいるのでした。そんな、女性を蔑視している主人公が、多くの男からの性欲の的になる若くグラマラスな女性に変身するのは皮肉が効いています。そして、主人公はだんだん女性が感じている不快さを、身をもって感じていくようになる。

読みながら、これだけ女性の生きる世界について「はー! そうなのか! 考えてみればそうだよね!」と本質的なところを知ったり考えたりしたことはなかったです。僕と言う男が、なんとなくわかった気でいたり、知ろうとしてさえいなかったり、こっちが介入するものでもないしと遠ざけていたり、瞬間的に放っておいたり、誤解していたりした、女性が生きているその世界が描かれている。つまり、女性はこの世界をどう感じているのか、女性からこの世界がどう見えているのかが描かれている。

まだまだ誤解があり、予期しにくい間違いをこれからもしでかす危険性を持っていることをふまえつつ言いますが、女性といくら話をしてもきっとわかることができなさそうなことを、この作品から肌感覚レベルでわかることができる、というか。

なんて優しくて、なんて大変で、そして楽しくて哀しい生のなかを生きているのだろうか。強めの抑圧に境界を定められながら、その内を手一杯走りまわるかのよう。「生きがい」と「危険」の濃淡のはっきりしたワンダーランドで精いっぱい生きているような感覚でした。例外はいろいろあるでしょうけれども。

『悪夢じゃなかった?』を読み、個別的に見ればまた違うのだろうけど、女性一般の存在っていうか、人生としての女性性に「あなたがたが好きだわ」と思いました。とはいえ、ここでも描かれている、男性のいやらしさや汚さを僕も持っていて、それは逃れられないサガのようでもあり、残念な気持ちはある。残念な気持ちというか、原罪を抱えているかのような感じがします。そういったところは今後、自分で考えていけばいいのだけど……。
ともあれ、ラストで腹の底から笑えました。可笑しいのと嬉しいのと驚きと優しさで笑えました(ネタバレになるので詳しくはいいません)。ここは、はっきり言いきっておきます、『悪夢じゃなかった?』は傑作です!!

最後の『お嬢さんたち気をつけて』も都会と田舎の対比がうまかったですし、もちろん口火を切る『かわいい結婚』もギャップにおどろく作品でおもしろかった。

アマゾンをちょろちょろしている時に、なんとなしにクリックして手にいれた作品でしたが、そういう出合いもあなどれません。苦味のあるコメディといった感じですが、そういうテイストで突き抜けてくる印象があります。満腹!っていうくらい楽しみました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年1月17日
読了日 : 2021年1月17日
本棚登録日 : 2021年1月17日

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