川は高いところから低いところへ流れていき、最後に海へと出ていく。あらためて読んでみても、当たり前なことを再確認するだけかもしれないですが、そんな自然の地形の高低、うねうねでこぼこした自然そのものの地形を、流域という単位でくくって現在の行政区で区切られた地図のほかに、流域地図というものを作り、地球を眺め直そう、というようなねらいのある「流域思考」の入門書です。現在のデカルト座標は、地形というものを無視しています。それは、人間の都合で恣意的に地形を切り取ったものです。流域地図は、源流から上流、中流、下流、河口、そして本流のみならず数々の支流を含めた水系をひとつの単位として見る考え方によって作られた地図。ナチュナルで本質的な地図なのでした。この流域地図が、ではどんな役に立つのか。それは、最近頻発する豪雨によって、豪流と化したり、氾濫する河川を治水するときにまず役立ちます。行政区を越えて、水系に属する行政区まるごとの連携を促す治水策には、この流域思考が役に立つのが、わりと簡単に腑に落ちてくると思います。また、産業革命以来、地球を人間のための資源や素材に過ぎないものだと捉える、いわゆる「地球は利用するもの」という価値観が主流だったりしますが、この流域思考によって自然の地形を意識するようになることを通じると、「地球は共生するもの」というような価値観へと転換を図れるのではないかという、期待と可能性が感じられるようになります。気候変動による地球温暖化は海面上昇を引き起こし、今後、日本に限らず、主要都市を海面下に沈めることにもなります。緩和策として、温室効果ガス削減などが目標にされますが、欧米では、大豪雨の頻発や海面上昇を、もはや前提として策を講じる、適応策に舵を切り始めているといいます。具体的には、高台造成などだそうです。そして、そういった適応策に、やはり流域思考が基盤になるであろうことは、想像に難くありません。といったように、本書は150ページくらいの分量なのですが、まとまった感じととっつきやすさに助けられながら流域思考に入門できます。今年もまた台風による大豪雨などが頻発しました。今後も落ち着きはしないのではないかと、気候変動を体感できるくらいになった現在では、覚悟をするような気持ちにならないでしょうか。そんななか、いつまでも、自然を無視したデカルト座標の地図による思考を貫いていては、災害に振り回されるだけなのではないか。また、本書で取り上げられている、小網代と鶴見川の環境保全のように、生態系の多様性を守るのにも、流域思考は威力を発揮するようです。採集狩猟時代には持っていた感覚だと言います。今、それを復古することで、気候変動時代に、ある種の生きやすさが芽吹いていく、そんな可能性を感じさせる本でした。
- 感想投稿日 : 2019年11月8日
- 読了日 : 2019年11月8日
- 本棚登録日 : 2019年11月8日
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