これから資本主義はどう変わるのか――17人の賢人が語る新たな文明のビジョン

  • 英治出版 (2010年1月25日発売)
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感想 : 21
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■全体として何に関する本か
 本書は、ビル・ゲイツ氏を始めとする資本主義経済界の要人や有識者など17名の著者による、これからの資本主義がどう変化していくのか予測を集めた短編集である。マイクロソフトのビル・ゲイツ氏やグラミン銀行のムハマド・ユヌス氏、アメリカの「Teach for America」のウェンディ・コップ氏など経済界の大御所からスターまで様々な経済人の考えを知るのに最適な一冊である。


■何がどのように詳しく述べられているか
 前半では「これまでの資本主義の発達を踏まえて、これから資本主義がどう進化していくのか」について書かれている。ムハマド・ユヌス氏のグラミン銀行の話やジャッキー・ダン氏による通貨の新しい可能性の話は大変刺激的で、読んでいて面白い。ジャッキー・ダン氏によると通貨が今後の社会において一つのレバレッジポイントになるという。ブラジルのクリチバ市というスラム街が新しい通貨制度を導入したことによって、国連から「最も環境に優しい街」に指定される程の大変貌を遂げたことや、スイスの経済情勢が高水準である背景として「WIR」というスイスフランとは別の通貨が一役買っているという事実が語られている。他にも最新の資本主義経済システムが数多く取り上げられている。
 本書の後半は「変革の担い手」について書かれている。前半で紹介したような新しい経済システムを成功に導く人における共通の特徴や、変革者の育成方法などについて説明されている。


■その本は全体として真実か、どんな意義があるのか
 それぞれの著者における共通の考えとして、民間セクターの役割が今後大きく変わろうとしていることが挙げられる。ある著者によれば、これまでの民間セクターの仕事は「株主のために利益を生み出すこと」「従業員のために職を提供すること」「所在国に税金を納めること」の3つであったが、これからは新たに「CSRの仕事」が重要な要素として加わるという。実例としてナイキやトリンプなど超大手企業がCSRを過少に見たため窮地に陥りかけた事例を紹介し、CSRの重要性を説いている。CSRとして社会的規範や環境保護規範を尊重することはもはや当然であり、これからの企業は自身の経営環境である社会を分析し、自ら必要な行動を起こすことが重要だという。ここ近年の社会情勢を見ても、CSRが企業の重要な仕事であることは明らかであるが、世界各地の事例を知ることでその認識は一層高まる。


■一番面白かったのはどこか、なぜ自分は面白かったのか
 『世界はよくなっている』ビル・ゲイツ氏のこのメッセージが本書で最も刺激的だ。今日の世界を眺めて、病気や貧困、識字率の低さといった問題ばかり見てしまう人がいるが無理もないとゲイツ氏は言う。世界には苦しみがあまりにも多く、平和はあまりにも少ないからだ。さらにインターネットを始めとする通信技術の進歩によって、世界に存在する問題が目につきやすくなってもいる。
 しかし、そのような見方をする人は、大きな流れを見逃している。実際には、何千年、何世紀、何十年、どの単位でみても、世界は少しずつ、確実に良くなっていると言う。
 本書を読めば、まさにその通りだと感じるようになる。資本主義の悪いところではなく、資本主義の新たな可能性を強く感じることができる一冊である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年9月24日
読了日 : 2010年9月24日
本棚登録日 : 2011年9月24日

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