文壇アイドル論

著者 :
  • 岩波書店 (2002年6月27日発売)
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感想 : 21
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斉藤美奈子さんはほんとにわかりやすく文章を書いてくれる人で、苦労なしにすいすいと読め、しかしわかりやすからといって内容が平易というわけではない。この本は、80年代とはどんな時代だったか、というのを文壇を華々しく飾った面々から分析するという内容である。
8年前の本だから、もっと早く読めよ!ってかんじだが、ここで取り上げられた売れっ子作家は今も売れっ子作家、いやむしろそれ以上の文化人的扱いを受けてるので、8年前の本でも十分楽しく読むことが出来た。論評されてる作家で読んだことがないのは「なんとなくクリスタル」の田中康夫と俵万智、立花隆。それくらい、どの作家も身近に読んでるものである。

この本で気がついた、というか「おお、そうだったのか」と思ったことはいろいろあるのだが、たとえば、

◎村上龍のエッセイ・文化活動と小説内容のギャップ(結局、村上龍はどういう人なのだ?という疑問)

◎林真理子はなんであんなに頑張ってるのに評価が低かったのか
(でも、いまや林真理子は女流作家の最高峰。さらに、斉藤美奈子に言わせると「曾野綾子化してる」って。この表現が笑えた)

◎上野千鶴子のエッセイはどうして学術的なものより面白くないのか(さいきんはメモワールまで出しちゃう始末。すごい。社会学者っていうより文筆家、文化人である)

◎立花隆って、本当にすごい人なのか?

◎吉本ばななってなんであんなに外国で評価されまくり?どう考えても単調な話しなんだが。 


などなど・・・実際作家の本を読んで、ちょっと違和感があったり、なんか不思議と思ったところ、のどにつかえた小骨が取れたような爽快感が・・・

まあ、こういう安易に答えを出してはいけないのかもしれないけどさ、斉藤さんはあんまりクリアに物事整理してくれるから、そういう方向でいきましょう、という気分になるのである。斉藤美奈子はフェミニストであることには間違いないので(それはばりばりのフェミニストではないかもしれないけど)、そういう人が分析する評論は男のそれよりは信頼できると思う。

さすがフェミニスト評論家、と思ったのが、林真理子と上野千鶴子の章。林さんは「下から上がってきた人」、上野さんは「上から下りてきた人」、という図式。これはすばらしい。
林真理子は成り上がり精神で男社会である文壇村で地位を得、上野千鶴子はフェミニストとして世のおじさんおばさんを啓蒙するべく男社会である学術村から普通の世界(おやじが支配する男尊女卑家父長制社会)へ下りてきたのである。私はいつも上野千鶴子も林真理子も「上から目線」が気になってたが、斉藤氏の書いたこの分析を読み、同じ「上から目線」でも、自分がいままで上野千鶴子に完全にコミットできない理由がわかった気がした。やっぱエリートだしな・・・理論で武装、ってほんとかっこよくて憧れるけどさ~・・・

それにしても、80年代って文壇でもアイドルとして活躍できた時代なのね。いまはどうだ。アイドルはだれ?ジャニーズとAKBなんとか?もうぜんぜん浮かびません。個人としては全然頭に浮かばない。ケータイ小説とかも、たぶん個人の作家、内容がどうこうじゃないのね。売り出し方のみがポイントなわけか。そういう意味では、80年代ってわかりやすくて分析しやすい時代だったのかも。2000年以降、だら~っと日常が過ぎて、さしたるブームもなく10年終わって次の10年ってかんじなのかな。だから90年代に流行ったバンドとかまたまた売り出しにかかってるのかな。なんかもう、どこにも進まない感じだよ。ちょっとむなしいね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 斉藤美奈子
感想投稿日 : 2012年10月25日
読了日 : 2010年6月27日
本棚登録日 : 2012年10月25日

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