家と庭と犬とねこ

著者 :
  • 河出書房新社 (2013年5月23日発売)
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石井桃子さんが新聞や雑誌に寄せた随筆をまとめたもの。
ほぼ1950~60年代に発表された文章。

戦争末期から戦後しばらくのあいだ宮城県で農業をしていたころの話。
(タイトルのせいもあって「フョードルおじさんといぬとねこ」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4834007723を連想した)
亡くなった友人の家で暮らした東京の話。
(「家守綺譚」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4104299030のようだ)
外国に留学したときのことも少々。
(「子どもの本は世界の架け橋」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4772190376の時だろうか)

どれも、真摯な人だなあと思う。
戦後の話は昔語りに見えたけれど、書かれた時点では敗戦から3年や8年しかたっていない。
私から見て昔だからじゃなくて、過去と認識されているから「昔の話」にみえる。
今をしっかり生きている人にとって3年や8年は「過去」なんだ。

石井桃子さんに対する「素敵」というイメージに、「格好いい!」が加わった。
物事にまっすぐ取り組んで、それでいて無理かもと思ったら軌道修正する軽やかさもある。

ひとりで旅行をするのもごはんを食べるのも好きでやっているのに、かわいそうなものとして見られるのはしゃくだなあとか、
田舎に住むのも「主人の転勤で」とか言えばみんな一発で納得するだろうに、一人身だとしつこく聞かれて面倒くさいとか
女おひとりさま(ひとりで行動する自由をもとめる意味の「おひとりさま」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4120031799)っぽさが楽しい。

けっこうずっと、「家族」じゃない人と家族のように暮らしてる。
一人が好きで、喧騒に弱くて、本を肥やしにすべき職業なのに仕事が忙しくて本を読む暇がないと嘆いたり、十数年前に買った粉白粉を使いきれなかったり、
こういう、「なんでも華麗にこなす職業婦人」のイメージとは遠い人が、こんなにすごい仕事をして、こんなに人とかかわれるんだってことに力づけられた。


農村で暮らして、体を動かして働くそこの生活が好きで、素敵な面をたくさん書いてある。
でもそこの人たちが食っていけない状況、格差にもたびたび触れる。

「農基法と民主主義」に感動した。
この法律によって生活を変えられる農民のいったい何%がこの法律を理解できるのだろうか、とはいえ国民全員が法律を完璧に理解するなんてことは不可能だから、信頼できる賢い人を選んで法律をつくってもらうのだ、と書いた後の文章が以下。

“ このような民主主義的な代議制がうまくいくためには、百人のうちの八十人が、そのことをよく知らないでも、あとの二十人が、物ごとをよくのみこめないかもしれない八十人をばかにしないで、人間あつかいにすることを身につけてからでないと、なかなかうまくゆかない。
 農業基本法というものが、多くはこれまで学問するチャンスもなく働いてきた、口べたな人たちの仕事を近代化するという、実行のむずかしい法律であるだけに、単独審議できまったりするのをみると、政争の道具になっているような気がして、私は腹がたってくるのである。182”

猫がかわいいとか犬が脱走したとか庭の花を子供に盗まれたとか70過ぎて友達と足に血豆をつくりながら山桜をみたとか、
他愛ない文章も全部、心が洗われる。
この本を読めて幸せだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・対談
感想投稿日 : 2014年4月8日
読了日 : 2014年4月5日
本棚登録日 : 2014年4月7日

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