キャベツ畑にすえられたかかしの一生(というかワンシーズン)。
ちょっと「もみの木」っぽい。農村ののどかな空気に「機関車やえもん」を思い出した。
大きなストーリーはない。場面はずっと畑のまま微動だにしない。
だけどトーマスは自分の王国であるキャベツ畑に満足し、風にふれ、雨に濡れ、日照りに雨の恵みを知り、雷に怯え、虹を見て、動けない悲しみを感じ、凧をうらやむ。
位置はそのままにそよぐ穂波のような話だ。
初期の作品だからかやや拙い。
生まれたばかりのトーマスは物を知らないキャラなんだけど、無知のバランスが悪い。
たとえば光の反対側に影ができるしくみを知っているのに影が伸び縮みすることに驚く。
とってつけたような「かかしっぽさ」がやや気になる。
小さい魔女や小さい水の精は気にならないからたまたまこれが合わないだけかな?
訳もひどくはないけど美しくない。トーマスの口調は好き。
元の通りなのか訳のせいかわからない部分でも、"骨の髄まで、いや熊手の柄の髄まで恥ずかしくなりました"(p22)"頭をかきむしって考えましたが"(p46)のような、動けないかかしであることや木の棒でできていることが重要なシーンで動けるかのような言葉を使ってしまっている部分がいくつかある。
あと絵が怖い。表紙にあるような風を感じられる景色は美しいけれど、人が怖い。スズメも怖い。なんか不安になる。
子供の頃に見ていたらそうとう怖かったかもしれない。
リューベツァールも表紙は良かったんだよな。
プロイスラーの中ではそんなに好きなほうじゃないけれど、本としてはけっこう好き。
私はドイツ人じゃないなあ。
- 感想投稿日 : 2012年9月26日
- 読了日 : 2012年9月26日
- 本棚登録日 : 2012年9月25日
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