初めの数ページを読んだだけで、名作だと思える本に出会うことがある。
その一冊が本書だ。
本書は、「アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に送られた少女(中略)の実話をもとに書かれた小説」(訳者あとがきより)だという。
今は、「遠い過去」のあの時の物語.......。
その事実に衝撃を受けた。
アウシュヴィッツといえば『アンネの日記』がすぐに思い出されるが、本書は、それに匹敵する。
たった8冊の図書館。
それから生きている「本」である先生たち。
それを守るため、主人公ディタは知恵を働かせ、勇気を持って駆け回る。
しかしそのよき日は決して永遠に続くわけではない。
心ある大人たちが守ってきた日々は、悪意を持って終わりを迎えさせられる。
人々は、焼却炉で、焼かれた。
ディタはその悲劇からは逃れた。
不合格になり、焼却炉送りのはずの母とともに。
助かった?いや、移送先はさらにひどい場所だった。
恐ろしい看守は元は美容師だった。
ディタは、もし戦争が起きなかったら、と想像する。
恐ろしい看守に「人」を見ていた。
恐怖の日々を終えたディタは、後世のために体験を伝えることにした。
アウシュヴィッツの、図書係として。
世界を見れば、残虐行為は今も続いている。
日本人だって、かつては人を殺した。
それを否定はできないし、目を背けるべきではない。
戦争とは、人を変えてしまうもの。
なぜ起きたのか、起こさないためにはなにをすべきか。
それを考えることなく、誰かに責任を押し付け、蔑み、自分と切り離そうとするならば何度でも同じ間違いを犯すだろう。
ドイツ人はきっとこれからも、過去の罪と向き合わざるを得ない。
それは、現代に生きている人々にとっては辛いことだろう。
時には、いつまで過去の亡霊に縛られなければならないのだ、と反感の気持ちも持つだろう。
私たちは、断罪すべきではない。
私たちがすべきことは、過去を学び、過去を知り、未来の礎を積むことなのだ。
- 感想投稿日 : 2018年5月20日
- 読了日 : 2018年1月27日
- 本棚登録日 : 2018年5月20日
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