宮下奈都さんのデビュー作。
約100ページと、サラッと読める文量。
たい焼きといえば私の大学時代、歴史の上では何度目になるかわからないたい焼きブーム(当時はクロワッサンたい焼きとか)が到来し、仙台の街中にもたい焼き屋が点在していたので、私もよく買い食いしていたなぁと懐かしい気持ちになった。
なんて話はどうでもよくて、本作は事故で短期記憶をとどめておくことができなくなってしまったこよみさんと、その常連、果ては恋人となる行助(ゆきすけ)との日々が描かれたお話。
事故の後で記憶の機能についてはダメージを受けても、価値観や考え方は一貫し、美味しいたい焼きを作り続けるという職業魂を失わないこよみさんがとても魅力的。
・あたしたちは自分の知っているものでしか世界をつくれない。
・あたしの世界にもあなたはいる。あなたの世界にもあたしがいる。でも、ふたつの世界は同じものではない。
この二つのこよみさんのことばが印象的。
記憶は、大事だけれど、ものすごく大事な訳でもない。と言うのがこの本から抱いたイメージ。
記憶力があるかないかにかかわらず、
同じ景色を見ていても、同じものを食べていても、感じ方は人それぞれで、隣にいる人と100%同じ感想を抱くことはない。
もうその時点で私たちは半分しか交わっていないのだから、もし明日、相手の記憶から自分が消えてしまっても悲観的になる必要なんてない。
自分と相手との繋がりには、単純な記憶の共有以外に、同じ経験をした時にどれだけ深い部分で感情を共有できるかという深さの部分がある。そういう意味で、感受性を上げるために、世界を知ること、経験値を上げることは大切だなと感じた。
次は『羊と鋼の森』を読もう。
- 感想投稿日 : 2023年7月19日
- 読了日 : 2023年7月19日
- 本棚登録日 : 2023年7月18日
みんなの感想をみる