アラブとイスラエル パレスチナ問題の構図 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (1992年1月16日発売)
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2023年を振り返る1冊
中東問題で歴史を探る/日本担う人づくり急務 編集委員 倉品武文
2023/12/18付日本経済新聞 朝刊

2023年、様々な分野で大きなニュースが駆け巡った。その背景を知り、理解を深める上で、長年の研究を重ねた専門家の解説はヒントになるだろう。担当した大学の授業で寄せられた学生の関心を踏まえ、高校生にも手に取りやすい新旧の新書、文庫を選んだ。

学生はパレスチナ危機に最も関心を寄せた。高橋和夫著『アラブとイスラエル』は現代につながる中東問題の歴史的経緯や危機の構図を知る一冊である。

20世紀、戦争が繰り返される過程でパレスチナは混乱し、難民が生まれた。著者は「対立する諸見解を努めて公平に解説することを試みた」とその難しさを語る。そして「ユダヤ人国家建設というシオニストの夢が成就し、故郷の喪失というパレスチナ人の悪夢が始まった」と記している。

パレスチナはかつて「パレスチナ人の居住地であり、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が長年にわたって共存してきた地域であった」という解説が印象深い。時代や民族を超え、共存するという言葉の重みが伝わってくる。

人工知能(AI)の出現に学生は期待と不安を抱く。郭四志著『産業革命史』は国際政治経済の動きを産業革命史の視点で捉え直す。近年はIT(情報技術)、AI、新エネルギーなどの分野で第4次産業革命が起こり始め、「人間の価値観に大きな影響を与えつつある」と分析する。

さらに「科学技術・イノベーションは、激化する国家間の覇権争いの中核」と強調。米国と中国の覇権争いの下で日本は「日本ならではの文化・ソフトパワー」を活用した長期的戦略が求められると提起する。技術革新が国家の未来を左右するカギになることを気づかせてくれる。

日本の名目GDP(国内総生産)がドイツに抜かれ、世界第4位になると報じられた。森嶋通夫著『なぜ日本は没落するか』は1990年代末に書かれた。バブル崩壊後から停滞する2050年の日本がテーマである。近隣諸国との新たな関係づくりを目指す「東北アジア共同体」構想や、日本を担う人材の重要性を力説している点が興味深い。

「マルクスは経済が社会の土台であると考えるが、私は人間が土台だと考える」、日本に必要なのは「自分で問題をつくり、それを解きほぐすための論理を考え出す能力を持った人である」。AI時代を生きる学生へのヒントである。

今夏、記録的な猛暑に見舞われた。鬼頭昭雄著『異常気象と地球温暖化』は異常気象の捉え方や気候の仕組みを学生にもわかりやすく解説する。著者は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書執筆に携わった専門家だ。

今後、地球の平均気温の上昇が避けられないことを想定し「適応策などの対策を立てておくべき」と指摘する。現実的な分析は地球温暖化がすべての人々に共通した厳しい課題であることを突きつけている。

師走を迎え、大谷翔平選手が米大リーグのドジャースと総額7億ドル(約1015億円)のメジャー史上最高の大型契約を結んだというニュースが飛び込んできた。

鈴木透著『スポーツ国家アメリカ』は米プロスポーツが巨大なビジネスへと変貌した歩みを描いている。その背景には地道な経営努力があったという。

ファンサービスで顧客満足度を上げ、経営資源を多角化するために「入場料収入の他に、放映権料、関連商品の独自販売やライセンスの付与」などを事業に育ててきた。そしてスポーツは「この国の文化や社会の特質を明らかにする格好の素材」と意義づける。

時代は刻々と変化している。読書で得た時代への視点は新たな学びや就職活動にも生きてくるだろう。

 【さらにオススメの3冊】
(1)『歴史人口学で見た日本』(速水融)…人口学の手法を知る
(2)『国家は巨大ITに勝てるのか』(小林泰明)…GAFAなど企業群と各国政府の攻防を描く
(3)『2050年の世界』(ヘイミシュ・マクレイ、遠藤真美訳)…経済や歴史の視点から未来を予測

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読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: History
感想投稿日 : 2023年12月23日
本棚登録日 : 2023年12月23日

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