マインドフルネス

  • サンガ (2012年8月23日発売)
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日本証券業協会会長 森田敏夫氏
人こそ財産 個性生かす
2023/8/5付日本経済新聞 朝刊
大学を卒業後、野村証券に入社。以来ずっと証券業界に身を置いてきた。


どの会社もそうだと思いますが、特に証券業界にとって財産は人しかありません。どう人を育てていくか。悩むたびに繰り返し読んだのが『木のいのち木のこころ』でした。法隆寺の解体修理で棟梁(とうりょう)を務めた宮大工、西岡常一さんの話を聞き書きしたものです。

法隆寺のように1千年以上保たれた木造建築はなかなかない。1千年以上生きたヒノキを使っているからですが、大事なのはその木の個性を生かすこと。木は太陽の光に向かって伸びるので、そりが生じる。そのそりをうまく使ってあげるのが大事で、そりを削ると長くもたないのだそうです。

人も同じです。育ち方はみな違う。個性を生かす大切さを学びました。西岡さんは「教える」ことはしません。まずすべてを見ろと。自分でやって悩み、苦労してはじめて身につくとの考えです。一方で最後は大仕事を次世代に任せます。すべて任せて、もしそれで失敗したら自分が責任をとると覚悟をみせるのです。託された側は懸命に頑張り、成長するわけです。

従業員組合や営業担当役員、社長、業界団体トップと職責を重ねるごとに「リーダーとは」と自問してきた。


物事を冷静に判断すること、判断した後は情熱をもって取り組むことが大事です。『こころの処方箋』がたくさんの気づきを与えてくれました。孤独に耐える力と権力者としての責任感の強さとは比例する、とのリーダー論の指摘は本当にその通りだと思います。

著者は臨床心理学の専門家なのですが、冒頭は「人の心などわかるはずがない」と始まります。理解するには相当のエネルギーがいる。人は100対0で物事を決めるのではなく、多くは51対49ぐらいの差しかなく、逆の考えも持っている。あきらめずに向き合う大切さがわかります。あと、人間に目が2つあるのは奥行きをみるため、との指摘も面白いなと思いますね。

組合委員長のときに総会屋への利益供与事件に直面しました。「悪い場面でどう行動するかをリーダーは見られる」。そういってくれる先輩がいました。会社をよくするためだけに行動を取ろう。そう腹をくくりました。

心の平静さを保つために毎朝必ず瞑想(めいそう)している。

もう5年ぐらいになります。きっかけは『マインドフルネス』です。人の心はコップに入った泥水のようなもの。泥水を透明にするには放置し沈殿するのを待つのが一番の方法です。心も同じで時間をかけて瞑想し、静かに呼吸に集中します。でもすぐあちこちに心が飛ぶ。心をコントロールすることの難しさをまず気づかされます。

仕事を忘れ、すっきりする読書もします。心のビタミン剤ですね。感動系では『とんび』。不器用だけど純粋な親子の物語ですが、周囲に聞くと感動する場面がみな違うんです。痛快系では『水滸伝』。個性的な人物が次々登場し命をかけて戦います。海外出張の飛行機が至福の読書の時間です。

世の中の変化のスピードが加速していると実感している。

コロナ禍で一気に加速したと思います。今までの常識を疑い、自ら考えて行動しないといけない時代です。イノベーションを起こすには多様性が欠かせません。『ローマ人の物語』は変革の難しさも示してくれます。ゼロから作るよりも、既存システムを自ら変革するのは大変な作業になります。

認めたくない現実から目をそらさない姿勢が大切です。相矛盾することをやり遂げるのが経営でしょう。またバランス感覚を取り違えてはいけません。2つの考えの真ん中ではなく、環境に応じて両軸のあいだを縦横無尽に動いて判断することがバランス感覚の大事な点でしょう。

『選択の自由』はいま読んでも発見があります。市場の価格決定は効率的で、改めて我々の仕事の重要性を思い起こさせます。インフレをアルコール依存症に例えていることは教訓でしょう。物的資本と人的資本の議論も現在に通じます。容易に置き換えられないからこそ、人的資本が優れた会社の収益性は高い。やはり組織は人なのです。

(聞き手は編集委員 藤田和明)

【私の読書遍歴】

《座右の書》

『木のいのち木のこころ』(西岡常一ほか著、新潮文庫)

『ローマ人の物語』(塩野七生著、新潮文庫、全43巻)

《その他愛読書など》
(1)『こころの処方箋』(河合隼雄著、新潮文庫)。子どもは十分な親への依存があってこそ自立するとの指摘にも同感。
(2)『マインドフルネス』(バンテ・H・グナラタナ著、出村佳子訳、サンガ)。心を静かに見つめるとささいなことにくよくよしている自分にも気づく。
(3)『自由からの逃走』(エーリッヒ・フロム著、日高六郎訳、東京創元社)。自由を勝ち取ったがゆえに人間は孤独に。たくさん線を引いた本。
(4)『選択の自由』(M&R・フリードマン著、西山千明訳、日本経済新聞出版)
(5)『とんび』(重松清著、角川文庫)。小料理屋の女将と娘の会話の場面に涙がこぼれた。
(6)『水滸伝』(北方謙三著、集英社文庫、全19巻)
もりた・としお 1961年鳥取県出身。85年同志社大学商学部卒、野村証券入社。同社社長を退任後、2021年7月から日本証券業協会会長。

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読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: Health
感想投稿日 : 2023年8月19日
本棚登録日 : 2023年8月19日

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