十一番目の志士 下 (文春文庫 し 1-3)

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  • 文藝春秋 (1974年11月25日発売)
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権力の交代はやはり武力による決着しかないので、物語の背景で進行するのは薩長連合(倒幕の密約)と先延ばしになっていた第二次長州征伐実行。主人公はまるで幻術のような精妙な剣法で窮地を切り抜けていき、合間に買春・情交する。軍隊移動、通信も迅速な蒸気船の出現が日本を変えた。危機感の無い者は時代に取り残される。倒れるはずが無いと見えた幕府が倒れたのも近代軍隊を編制するのに要員を「火消し、博徒から募った」という武士の不甲斐なさだろう。高杉晋作、坂本龍馬など勝海舟の教え子の活躍が目立つ。司馬遼の描く新政府は冴えないが、青年たちの危機感は「国家」のアイデンティティーとなった。
 思想とは「大勢から一人しか救命できない時、誰を選ぶか」あるいは「必ず死ぬとわかった時、何を残すか」といった極限状況でしか試されず生まれず、ちょうど『弾圧下、殉教者が宗教を作る』と言われるようなものか。人が感動するのは“死の克服”。日本に限らず先進国の少子化は社会より個人の幸福追求の結果でしょうが、原発廃棄物処理先送りなど世代エゴイズムもありそう。
高杉晋作、桂小五郎、吉田松陰、伊藤俊輔、井上聞多、中村半次郎、中岡慎太郎、坂本龍馬、西郷隆盛、大久保利通、ぐらいの十人に(奈良本辰也の解説にあるように)無念(非名誉)の刑死を受けた赤根武人を対比しているのではないでしょうか。彼は農民出で国事に貢献するため近代軍隊・奇兵隊の隊長までなったですが藩論が俗論から倒幕に転換したため「国主を救おうと」新撰組に近づいたことが《裏切り》とされました。彼が無私の動機、無比の働きだったことは疑いなく、最期の悲運は不運だっただけなのか志士として名を残す何かが無かったのか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 江戸時代
感想投稿日 : 2019年3月29日
読了日 : 2013年10月5日
本棚登録日 : 2019年3月29日

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