お目出たき人 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1999年12月27日発売)
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本棚登録 : 845
感想 : 85
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例の読書サークルによる、空前の恋愛小説ブームで検索に引っかかった一冊。

お目出たい主人公は恋する鶴を一方的に想うだけ。一言も口をきいたことがなく、自分の存在に気付いているかどうかもわからないのに、彼女も自分を好きでいるとか自分の妻になれば幸せだとか、一体どうして思えるのか。思い込みが激しいにも程がある。それでいてやれるだけのことはやったと思っている。ただのストーカーではないか。なんてお目出たいんだろう。
全編を通してお目出たき彼の脳味噌を覗き見したようで、あまりにも赤裸々過ぎて、かえってこちらが申し訳なくなってしまうくらい。さらに本編のあとにお目出き彼が書いたとされる、付録の小説が付いているのだが、それがますます痛々しい。お目出たき彼は自分でお目出たいと言いながら、たびたび「〜と思うまではお目出たくない」と彼なりの線引きをしており、いや貴方十分にお目出たいですよ、と呆れてしまう。そんな彼もいろいろと妄想しては不安になるのだが、そのたびに自分は勇士だ!勉強しよう!と自分を鼓舞して昇華しようとする。どこまでもお目出たい。
裏表紙にも書いてあるが、主人公は当然失恋する。時すでに遅しではあるが、残念なお目出き彼のために、彼の良いところを探してあげようと思う。何しろ鶴は彼の何も知らないし、代わりに読者は彼の頭の中を知りすぎている。彼は自己中心的でナルシストではあるが不思議と実害はない。時々他者に対して感謝もするし反省もし、完全に社会性を失っているわけではないのだ。何より彼の周りにはわりと面倒見の良い(?)人たちが揃っており、彼自身がそこそこいいヤツである可能性は高い。鶴よ、彼に興味を持ってやってくれ。
それにしてもこのお目出たさ、完全に突き放して笑えないところが苦しい。自分にも思い当たる節がなきにしもあらず。人間いくらかお目出たい方が人生を楽しめるものだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛小説
感想投稿日 : 2015年5月18日
読了日 : 2015年5月18日
本棚登録日 : 2015年5月14日

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