江戸時代のロビンソン: 七つの漂流譚 (新潮文庫 い 96-1)

著者 :
  • 新潮社 (2009年9月29日発売)
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4

なんというガッツ…
江戸時代の日本人のたくましさに
驚きと尊敬、ちょっぴりうらやましさが隠せません…

鎖国という世界でもまれな状況下にあった江戸時代の日本、
その時代に漁や貨物の輸送中に流されて
遠路はるばるロシアやフィリピン、アメリカあたりまで
いっちゃって、頑張って帰ってきた人たちの
貴重な記録を丹念にまとめてある。
そもそも鎖国下の日本では、海外に行ってきたことを
語るのすらタブーとされていたので、
正確でない記述、伝聞、装飾は
もちろん考えられるけど、それだけでは覆い隠せない、
シビアな現実もやっぱり見えてくるわけで。

①無人島
日本近海の鳥島に漂着した人々。
中でも20年を生きぬいた3人は圧巻。
最初はもう少し人数がいたけど仲間は次々亡くなり、
島に繁殖していたあほうどり(のおかげで命をつないだ)の
毛を使った着物など自作して20年、
たまたま漂着した別の船の人々と力を合わせて船を造り
とうとう島を脱出!!
肉食が禁忌だった江戸時代、生き残るためとはいえ
火も持たずに上陸した島で生の鳥を食べ続けたため、
火を通した食べ物がのどを通らなくなっていたという、
まさにリアル。

②ロシアに行った大黒屋光太夫。
結構有名な人だけど、きちんと話を読んだことがなかった。
卓越した耳を持っていた彼は
ロシア語を習得し、最終的には女帝に謁見し、
日本帰国の許しを得る。
一介の漂民が、度胸で異国、異文化を渡る。かっこいい!!!

③フィリピンに流されて苦労。
フィリピンのいわゆる原住民につかまってしまった漂民、
奴隷として扱われ、次々と死んでゆく仲間…
これではいけない、と共謀し、
フィリピンにない貴金属を持って帰ってくるから!!本当に!!
という一世一代の嘘をついてなんとか
島から逃げようと図る。
病気で死の床についても、貴金属を持ってくるだけだ…
と苦しい息の下から、嘘をつき続ける仲間!!
現地の女性とできてしまい、おれは危険な目にあうくらいなら
降りる、と宣言するも、
最後まで仲間を売らなかった男!!
木の釘、木の皮の船で、原住民の疑惑の目をなんとか
そらして脱出、懐かしの故郷へ…
もう一本の小説になりそうな、戦う男たち。

④ボルネオからの脱出。
やっぱりつかまって奴隷とされるも、
裕福な華僑の家に売り飛ばされた男、
年老いた華僑の母を見て、
儒教発祥の国だもん、きっといけるはず、
と故国に置いてきた母に、せめて一目会いたい…と
切に訴えると、さすが儒教の国!!
年老いた母親も我が息子をかんがみて、
それは人さまの息子だって、母親は恋しいに違いない、と
奴隷の主人にあたる息子を説得、儒教精神が
見事に彼を奴隷の座から解き放つ。
最終的にはお土産を持たせてもらって、オランダ船に乗って
お見送りつきで帰るという、
これまた事実は…というお話。


もちろん歴史にのらずに生き残った漂民もいれば、
生き残れず人知れず命を落としていった漂民たちもいるわけで。
なんというか、そのバイタリティ、
そのユニークさに、久々に心がわくわくしたのでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: また読みたい?かも
感想投稿日 : 2012年8月3日
読了日 : -
本棚登録日 : 2012年8月3日

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