ゴールデンスランバー (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2010年11月29日発売)
4.14
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本棚登録 : 37483
感想 : 2396
5

この作品を読んだのは2度目です。
この作品の正統派のレビューを書くとしたらなら、まず権力に対する怒りとか、マスコミや外野の人たちの恐ろしさ、本当の友情とは何かなどを書かなければならないのかもしれません。
でも、2度目に読んだので別のことを書きます。

最初は単行本が出たときすぐに買って読みました。
そして、この作品は、第5回本屋大賞受賞、山本周五郎賞受賞、映画化もされました。

私は、日本で今活躍されている作家さんの中で伊坂幸太郎さんが最も好きな作家さんなんですが、その理由として、デビュー間もない頃、作家とファンという立場ですが、2度お目にかかってそのお人柄にも触れたことがあるということもあります。一度目は『ラッシュライフ』のあと二度目は『死神の精度』のすぐあとです。

12年前になりますが、そのことをよく知っている友人に「何か伊坂さんの本を貸して欲しい」と言われ、友人が「ゴールデンスランバーがいい」というので(本屋大賞のせいだと思います)貸したら、返ってきた感想が、「私はこの人は好きじゃない。だって話を全部作っているから」というようなことを言われてしまい、慌てて「他の本も読んでみたら」と言ってみたのですが、「ううん、もうわかったからいい」と言われてしまいました。
友人の言っていることは、私はあくまでファンですが、なんとなくわかるんです。伊坂さんの作品は伏線の鮮やかな回収が特に初期の作品では技巧的に上手いと言われています。
私もこの作品に関して言えば、主人公の青柳雅春と大学時代の恋人の樋口晴子が数年の付き合いを経て別れているのが、すごく気になっていました。「この二人って別に別れる必要ないのに、ストーリーの都合上、特に理由もないのに別れた恋人同士として都合よく使うための関係じゃないのか」と私も1度目に読んだときはそういう、意地悪な自問自答をしました。
でも、今回読んだら違ったのです。

友人の次に弟にも「この本を貸してくれ」と言われ、貸したら案の定、返ってこなくなったので、今回文庫本を買って読みました。
伊坂さんはやっぱり上手いです。私は作られた話だとはもう思えなくなっていて、別れるべき運命の二人だったのだと思いました。
1度目と2度目、何が違ったのかと思うと、私の方が成長していた(と自分でいうのもなんですが)のでしょう。読みなれたというか。
この話が技巧的であるとか思うのはとんでもない間違いであると確信しました。別れた二人の、その後の物語そのものだったのですね。

そして680ページありますが、最後の500ページ以降は2度目にもかかわらず、ページを繰る手が止まらないという表現がまさにぴったりの圧巻のエンターテインメントでもありました。

『ゴールデンスランバー』というのは、ビートルズの歌の曲名にちなんだものだそうで、直訳すると『黄金のまどろみ』。「今はもうあの頃には戻れないし。昔は帰る道があったのに。いつの間にかみんな年取って…」というような歌詞があるそうです。
別れてしまった、恋人たち、逢えなくなった昔の友人達の存在の寂しさを象徴しているような気がします。

そして、後日談ですが、本を貸した友人の、当時生まれたばかりだった娘さんが、今、中学生で、伊坂さんの大ファンになられたそうなんです。「陽気なギャングとか好きなんだけど、あれってそんなに面白いの?」とこの間友人に聞かれました。

長々とすいませんでした。
そして、勝手に書いてしまって友人のAさん、読んでいらしたらごめんなさい(__)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年5月23日
読了日 : 2020年5月23日
本棚登録日 : 2020年5月23日

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コメント 7件

ひとしさんのコメント
2020/05/24

まことさんこんにちは!
いつもしっかりとしたレビュー楽しみにしています。

私も伊坂幸太郎さんは大好きで、素晴らしい作品がたくさんある中でも、この『ゴールデンスランバー』は伊坂幸太郎さんを好きになったきっかけの小説だったように記憶しています。

人それぞれ色んな感想があって良いと思いますが、なんといっても伏線の回収は伊坂幸太郎さんの魅力の一つですよね!
それにしても、2度も会われているなんて羨ましい限りです。
これからも素晴らしい作品を描き続けていただきたいですね!

長々と失礼しました。

まことさんのコメント
2020/05/24

ひとしさん♪こんにちは。

コメントありがとうございます。
しっかりとしたレビューだなんて、とんでもありません(^^;

『ゴールデンスランバー』は文庫あとがきによりますと、伊坂さんの初期の作品の集大成といわれているそうですね!

私は、伊坂さんのファンになったきっかけが、とある講座で伊坂さんのお話を聴くというチャンスに恵まれまして、それで、当時出版されていた、伊坂さんの『オーデュボンの祈り』と『ラッシュライフ』を読んでからいったのが、始まりです。講座の先生に「もう一度伊坂さんを呼んでください」とお願いしたら2度目も叶い、心ゆくまでお話もさせていただき、もう夢心地でした。
これでは、ファンにならないほうがおかしいですよね(*^^*)

本当は講座のことはネット流出禁止らしいのですが、ついつい話してしまいました。
もう、伊坂さんはすごい人気になられて三度いらっしゃることはないというのが、淋しいところです。

kurumicookiesさんのコメント
2020/06/07

井坂幸太郎は、いつか読んでみたいと思っているので、参考になります❗️

ひとしさんのコメント
2020/06/07

伊坂幸太郎、未読なんですね!
これから読まれるのが羨ましいです♫

まことさんのコメント
2020/06/07

kurumicookiesさん♪初めまして。

フォローありがとうございます!
伊坂幸太郎さんはお薦めです。
ひとことで言えば勧善懲悪なところとか、伏線回収の見事さが魅力です。
他にも魅力はたくさんありますが。
楽しんでください。

ひとしさん♪こんにちは。

ひとしさんはkurumicookiesさんに返信されたのですよね。
私のメールボックスにも入っていたので、コメント読ませていただきました。
ブクログさんも、色々、機能が便利になってきて、複数人で、コメント欄で語りあったりできますね(*^^*)

ひとしさんのコメント
2020/06/07

そうなんです。
やっぱり私のメールボックスにも返信がきましたってようなものが来ていたので(^◇^;)
ホント便利になってきましたよね!
これからもよろしくお願いします!

まことさんのコメント
2020/06/08

ひとしさん♪

こちらこそ、これからもよろしくお願いします!

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