蓮の数式 (中公文庫 と 33-1)

著者 :
  • 中央公論新社 (2018年1月23日発売)
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本棚登録 : 258
感想 : 40
5

これは完成度の高い大人の小説だと思いました。

主人公は結婚して13年間、高圧的な夫の安西真一から、義母を殺して逃げようとした千穂35歳と、一緒に逃げた高山透27歳。

千穂は、夫と義母から異常なまでに子供を望まれ、不妊治療を何年もしていましたが、4度の流産を繰り返しています。
真一は結婚してから、性格も性癖も歪んだ倒錯的な人物だったことがわかります。

高山透は数字認識に障害があり、そろばん塾の講師であった千穂と知り合います。
透には子供の頃の殺人事件の犯人として、追いかけてくる新藤賢治という男がいます。
そしてまた透は人との交流を持つ手段をセックス以外に待っていない女性との関係の絶えない人物でした。

そんな二人が逃げたのは透が子供の頃の楽しかった思い出のある能登のスナック「ダリア」。
そこで二人は束の間、夫婦として認められ夢のような短い日々を過ごしますが、透の祖母の邦子に「あんたは誰や。透ではない」と言われ、透は邦子を殺し、またもや逃避行の生活に。

追手は真一と賢治、そして警察も二人を追っています。
逃げ切れる訳のない罪を犯してきた透。

たくさんの人を殺めた透と千穂ですが、この二人にはその不幸な経歴からなぜか感情移入をして、逃げ切って欲しいと思わされます。

そして千穂は透の子供を自然妊娠します。
ラストはエンタメ的要素がさらに加わって、ハッピーエンドにはなりませんが、人間ドラマの描き方が濃密で余韻の残るラストでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2020年10月29日
読了日 : 2020年10月29日
本棚登録日 : 2020年10月18日

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