凍りのくじら (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2008年11月14日発売)
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「私は羨ましいんだ、美也たちが。大好きなんだよ。人間が好きなんだよ。そこに行けない自分のことが、大嫌いなんだよ。」p422

溢れ出すものを必死に堪えながら読んだ。

主人公が抱えているものは、きっとみんな、抱えているもの。楽しくないのに笑って、無理してるな自分ってわかっていてもひとりになるのは寂しくて、ふと、自分が空気のように感じて虚しくて。どうして自分だけうまくできないんだろう。どうして心から楽しめないんだろう。どうしてこんなにも所在が曖昧でふわふわなの。自分の居場所って何。

みんな、そうなんだと思う。
みんな、そんな少し•不在の気持ちを抱えて、楽しそうな周りの人たちを俯瞰して、馬鹿にして、それでも離れられずに羨んでいる。自分だけがこんな思いをしているのだと思い込みながら。

「二十二世紀でも、まだ最新の発明なんだ。海底でも、宇宙でも、どんな場所であっても、この光を浴びたら、そこで生きていける。息苦しさを感じることなく、そこを自分の場所として捉え、呼吸ができるよ。氷の下でも生きていける。君はもう、少し•不在なんかじゃなくなる」p525

辻村さんは照らそうとしてくれた。テキオー灯を文章にのせて、あたたかな光を送ってくれた。

「『誰かと繋がりたいときは縋りついたっていいんだよ。相手の事情なんか無視して、一緒にいたいって、それを口にしてもー』言いながら気が付く。それが、自分自身に向けての言葉なのだということに。他でもない私がそうしたいのだということに。

私は一人が怖い。誰かと生きていきたい。必要とされたいし、必要としたい。」p537


凍りの隙間から射す光に照らされて、溶けていく。

わたしは、救われたような気がした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  現代小説
感想投稿日 : 2012年9月12日
読了日 : 2012年9月12日
本棚登録日 : 2012年9月10日

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