遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)

  • 早川書房 (2001年9月15日発売)
3.53
  • (84)
  • (202)
  • (239)
  • (54)
  • (4)
本棚登録 : 2144
感想 : 234
3

 登場人物の誰も好きになれず、居心地の悪いわだかまりを抱えて読んだ。久しぶりの感覚だった。

 主要人物の自己主張が激しい、会話から共感や成長が何も生まれない、時間を共有してはいても内面的には自分の殻から脱することがない。過去に心の中でどこか嘲っていた人物と、結局同じことをして失敗する自分。身に覚えがあることも多々だし、だからといって最適な方法ってなかなか見つからないままだなって、再認識した。
 人間の本質の、暗い部分を思い出させるような描写が多かった。読んでいて“ああ、そうだよな。人間ってそうだよな。分かり合えないことばかりだ。分かった風を装って、腹の中では認められないことばかりだ。それが人間なんだよな。“って、何度も思わされた。
 権力、社会的圧力、自己欺瞞、自らの正義の押し付け、 承認欲求…。そういうのも読んでてすごい共感したし、同時に辟易した。

 訳者の技術による恩恵かもしれないが、外面は馬鹿がつくほど良いくせに、内では勝手に罵って、問題をややこしくする、そういうのは特に日本人が強く持つ性質で、それがよく表れていると思った。作者自身はほとんど海外で育ったと言えるようなので、日本的気質をどれ程持ち得ているのか分からないが…。最近、人間に共通の性質と、日本人に共通の性質の線引きがイマイチピンときてないから、またじっくり考えたい。

 読後、明るいのか暗いのか、なんとも言えないモヤモヤした感覚になったが、解説でイシグロの世界観について、「自分と世界との関係が分からない人間、過去についても未来についてもどう考えたらいいのか分からない人間、理想とは無縁に暗闇の中で手探りしている人間、暗さの勝っている薄明の世界という表現が非常にしっくりきた。
 昔の自分だったらこの世界観にどっぷり浸かって、世界をこんな風に捉えたっていいんだよなって、その暗さに共感と安心を覚えたかもしれない。けど、今の自分はどうしても、その程度の光で生きて何の価値があるのかと感じてしまうし、不気味な本質への嫌悪感が強くて、なかなか考えが進歩しないなっていう絶望感がある。
 小説も、ただただ通り過ぎて、なんとも言えない感情を残していって、後で形として残っているものは何もないっていう感じだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年4月1日
読了日 : 2020年3月29日
本棚登録日 : 2020年3月29日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする