四日間の奇蹟 (宝島社文庫 347)

著者 :
  • 宝島社 (2004年1月1日発売)
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<内容紹介>
 指を失ったピアニストの青年と、精神遅滞の少女が、国立脳科学研究所病院付属医療法人長期加療者療養センターで遭遇する奇蹟の物語。

 ミステリーともファンタジーとも紹介される本書。でも、私にはどちらとも思えなかった。脳や音楽を基軸に人間をえがいた物語。
 読む人の興味や関心によって、様々な読み方ができる物語に感じる。そういう意味で、すごい小説だと思った。

 脳の話として読むと、少女の脳には活動していない部位がある。左半球の前頭連合野の44野。ブローカ野とも呼ばれる言語を扱う部位を中心に一帯の連合野の活動が止まっている。そんな彼女の脳にどんな変化が起こるのか…
 1章を中心に脳の話は要所要所で解説もされている。

 音楽の話として読むと、ピアノ曲はこの話の構成を助けている。作曲する事やピアノで演奏するという事について、いろいろ考えさせてくれる。

 心の話としても読める。脳についての話を読み飛ばしても、人の心という事を十分に感じさせてくれる物語だと思う。

 ただ最終的に作者が扱っているのは、人間だと思う。
 私にとっては、人が人として生きる事、人の力を感じさせてくれる物語だった。


<感想> ※ネタばれあり
 自分の中にいる他者、他者の中にいる自分という事を考えた。
 人は人と影響しあいながら生きている。
 そして、タイミングや場面や状況など様々な条件がそろったとき、特別なある人との出会いや経験が、人生をかえるような大きなものになる事がある。
 それは、奇蹟的なものなのかもしれないと思った。千織の脳に起こったような。

 千織の脳に起こった変化は奇蹟的で、この物語をファンタジーと考えるのは当然の事だと思う。
 だけど私は、作中の倉野医師の乖離という考えを支持したい。
 冷たいようだけど…

 でも、それでも、千織の乖離した人格が統合されていく過程で、登場人物たちは救われたんだ。真理子も如月も千織自身も、周囲の他の人々も…
 そして、千織の人格の統合は、登場人物たちが自分自身を受け入れていった、自分自身の人生を肯定していった象徴なのだと思う。

 人は人によって救われる。
 だけど、自分自身がそれを望み受け入れていかなければ、奇蹟は起こらない。
 どんな事があっても、自分自身が諦めず、そして他者と向き合っていく事ができれば、人は変わる事ができる。それが、救いなのだと思う。


 私は脳に興味があるし、勉強したいとも思っている。
 だけど、人の心を脳科学で理解できる日はこないと信じている。

 人は人。
 人を理解するのに、脳科学で切り刻むような事はしたくない。
 脳科学でも他のどんな理論でも、人を理解したと思いたくない。
 科学や理論で説明できるのは、あくまでもその人の一部。それだって完全とは言えないのではないか?
 なぜなら、人は1人1人違う心を持った存在だから。その個別性を理論で説明しきれる日がくるとは思いたくない。

 でも、芸術は違う。言葉で説明する事のできない芸術は、人間を表現する事ができるような気がする。音楽も美術も文学も…その他の芸術も…

 だから私は文学と音楽が好きです。
 そして、音楽と文学の融合「4日間の奇蹟」は私にとって素敵な物語です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説 (日本)
感想投稿日 : 2013年10月25日
読了日 : 2013年10月25日
本棚登録日 : 2013年10月25日

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