とうへんぼくで、ばかったれ

著者 :
  • 新潮社 (2012年5月22日発売)
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感想 : 67
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23歳生娘吉田と42歳のぱっとしない独身男の恋愛物語。

百貨店で働く吉田はチラシの撮影で出会った広告代理店勤務のエノマタに好意を持ち、
週に何度か会社の前の公園で待ち伏せしてエノマタの行動を観察するなどプチストーカー行為をおこなっていた。

ある日会社が倒産し東京へ行ってしまったエノマタを追いかけ、吉田も上京。
再びストーカー行為によりエノマタの生活スタイルを把握して、小さなきっかけを元にとうとう交際に至る。

吉田はエノマタが好きだという欲求に従って行動しているだけで、本人はそのおかしさをあまり問題視していない。
吉田は一般的な感覚からは相当逸脱しているけれど、ひとつひとつの心の動きはとてもシンプルでわかりやすく、腑に落ちる感じがある。
エノマタ氏に片思いをしているときの方が楽しいな、と思ってしまったり、自分ばかりが相手に合わせているのが不服だけど、結局エノマタの都合がいいように振舞ってイライラがつのったり、不安になったりという心情がとてもリアルである。

しかし、そこまで愛されていながら、エノマタが吉田のことをどう思っているのか分からなかった。たぶん引いていたんだろう。エノマタ氏は恋愛体質でもなければ、盲目的に自分を愛する女を都合のいい女にして手の内で転がせるほど悪人でも器用でもなかった。
ある意味かなり罪な男である。
物語の最初と最後はエノマタ目線で語られる。
最初からそんな予感はしていたけれど、ふたりに別れが訪れて、吉田と共に恋の終わりを迎えたときはむしろ「別れてよかった」と思ったのに、最後のエノマタの独白で、ふたりがお互いを思う温度差が大きすぎたのかなと感じてなんだか悲しくなった。


恋愛小説であるけれど、それ以外の点も小気味いいお話である。
吉田と、札幌の幼馴染前田、バイトの同僚で彼氏と別れて吉田の家に転がり込んできたりえぽんのキャラが面白く、ちょっと変なところがいい。
ハムスターの枇杷介もいいアクセントである。
遠く離れた実家の両親との距離感とか、しっくり落ち着く表現が多かった。
しみじみといいお話である。

草食系の独身貴族や、そいつに恋してしまった女の子を見つけたらプレゼントしようと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛
感想投稿日 : 2012年6月7日
読了日 : 2012年6月6日
本棚登録日 : 2012年6月7日

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