あんじゅう 三島屋変調百物語事続 (角川文庫)

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  • 角川書店 (2013年6月21日発売)
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神田三島町の袋物屋の三島屋。
主人伊兵衛の姪のおちかは、実家の川崎宿の旅籠丸千から行儀見習いの名目で託されている。

おちかには、三島屋に託されるわけがあった。

「人は、身体を動かしていると物想いを忘れる。だからこそおちかは働きたがったのだし、同時にそれは、厳しく躾けられ使われることによって己を罰したい、罰してほしいという切実な願いでもあったろう」(序 変わり百物語 P6)

少しの偶然から伊兵衛の趣味の囲碁部屋「黒白の間」で、一度に一人ずつ、一話語りの百物語の聞き集めが始まった。

「『神様でも人でもさ、およそ心があるものならば、何がいちばん寂しいだろう』
 それは、必要とされないということさ」(第一話 逃げ水 P113)

「人は、心という器に様々な話を隠し持っている。その器から溢れ出てくる言葉に触れることで、おちかはこれまで見たこともないものを、普通に暮らしていたなら、生涯見ることができないであろうものを見せてもらってきた。
 そこに惹かれている」(第二話 藪から千本 P151)

「『世間に交じり、良きにつけ悪しきにつけ人の情に触れていなくては、何の学問ぞ、何の知識ぞ。くろすけはそれを教えてくれた。人を恋ながら人のそばでは生きることのできぬあの奇矯な命が、儂の傲慢を諫めてくれたのだよ』
 だから加登新左衛門は、子供たちに交じって暮らす晩年を選んだのだ。
 人は変わる。いくつになっても変わることができる。おちかは強く、心に思った」(第三話 暗獣 P502)

「『騙(かた)りが易しいのは、己は信じておらんことを、言葉だけをつるつると吐いて、他人に信じさせようとするからじゃ。真実(ほんとう)のことを語るのが難しいのは、己でも信じ難いことを、ただありのままに伝えようとするからでござろうな』」(第四話 吼える仏 P598)

人間にとって、最も難しいことのひとつは、人間関係だろう。
お互いに、そして世間に関わり合うからこそ、悩み、傷つき、苦しむ。

だが、それを癒やすヒントも人との関わりの中にこそある。

百物語は、始まったばかり。

おちかと、彼女の大切な人々が、現実の中で前に少しずつ進んでいく物語。

その姿は、心の奥の大事なものに火を灯してくれる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年10月13日
読了日 : 2021年10月13日
本棚登録日 : 2021年10月13日

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