性と国家

  • 河出書房新社 (2016年11月26日発売)
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知の巨人・佐藤優とフェミニズムの開拓者・北原みのりの対談集。

佐藤はこの対談を通して「自分自身の思考がいかに暴力性を帯びているかについて反省」したと語る。
一方、北原は佐藤のことを「差別と暴力を、握り拳のなかで感じられる人」と。

共鳴し合う二人の共通項は「獄中闘争」。

凄まじい経験した二人が共通して語る。
「拘束される恐怖と屈辱感」こそが差別の正体なのだと。執行猶予が終わった後、自由になった後こそが、恐怖で当時のことが書けないのだと。

二人の対談を通して、気付かずに差別する側になってしまうことに愕然とする。
でも、知ることが第一歩なのだ。

自分自身の胸に刺さる、抜き難き一本の矢。差異への拘りに気が付かされる渾身の対談集。

〈以下抜粋〉
「反権力が好きな男性たちの興奮が気持ち悪かった」(北原)

「逮捕されたときには、男は誰ひとりついてきてくれませんでしたよ。助けてくれたのは、三人の女性だけ」(佐藤)

「実はある筋から、私が外務省の悪口を散々書いてるからって、それを原作にアダルトビデオ化しないかという話があって(笑)。ビデオ会社の担当レベルでは興味を示したんだけど、法務ではねられたそうです。中央省庁を揶揄したりしたら、どうなるかわからないからと」(佐藤)

「外務省時代に付き合っていた情報関係のプロたちは、ロリコンとか女性への暴力とかをとても嫌っていました。逆説的になるんだけど、日常的に仕事で暴力を作り出す人間たちだから、私生活では魅力的な人が多かったですよね」(佐藤)

「正義はあると考えるのと、正義を振りかざすのは大きく違うんです」(北原)

「差別を本質的に捉えてない人が発言しても、沖縄人は冷たいですよ。琉球SEALDsに所属する大学生が『二番目の加害者は、安倍首相と日本人だ』と言いましたね。会場の一部は沸いているように見えたけど、私の周りは冷ややかだった」(佐藤)

「夏目漱石の『坊ちゃん』の中に、『日本人はなぜすぐに謝るのか。それはほんとうは悪いと思っておらず、謝れば許してもらえると甘えているからだ』というくだりがあります」(佐藤)

「忘れないけど許すというのが、本当の『和解』ですよね」(北原)

「イエスが捕まったときに男たちは皆逃げちゃったんだけど、女性たちはそばから離れなかった」(佐藤)

「日本の性売買は、どっぷり体制側。そういうシステムが当たり前のようにある世界で、男性たちもシステムの依存症になっているんじゃないでしょうか」(北原)

「今、そういった現場の方々が力を入れているのは、1956年に制定された『売春防止法』の改正です。60年前のジェンダー観でつくられた法律は、性売買に関わる女性を保護・更正の対象としてしか捉えておらず、使われる言葉も差別的です」(北原)

「『あなたの近い人が』じゃなくて『あなたが』『僕が』売春せざるをえないという状況になったときに『僕が』どういうふうに感じるか。そういう方向で立てないといけない」(佐藤)

「女の運動の歴史は、無視と嘲笑との闘いの歴史だ。それが性にまつわることであればあるほど、その闘いは過酷だ。男たちは対等な議論の俎上に、女の声をのせなかった」(北原)

「嘲笑される女から距離を保ち安全圏で正論を吐くフェミニズムでなく、嘲笑される女の横に立つフェミニストでありたいと願うようになった」(北原)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年3月10日
読了日 : 2017年3月9日
本棚登録日 : 2017年3月10日

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