塩狩峠 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1973年5月29日発売)
3.89
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本棚登録 : 10740
感想 : 1221
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1976年に開始された『新潮文庫の100冊』で、47年間選ばれ続けている常連作品。

この三浦綾子の『塩狩峠』と同様に、開始時から毎年選ばれている日本人の作品は、夏目漱石『こころ』、太宰治『人間失格』、井伏鱒二『黒い雨』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の4冊のみ。名作と言っていいでしょうね。

東京の本郷で生まれた主人公は、母が生まれて間もなく亡くなったと祖母に聞かされて育ちます。士族の家系故に厳格な祖母は、事あるごとに亡き母を例に上げて母を侮蔑していました。しかし、逆に少年は、もう会うことが叶わない亡き母を思い慕う日々を過ごしていました。

そんなある日、父に連れられて団子坂に菊人形を見に行くと、1人の少女が父に近付いて「おとうさま」と声をかけます。事情が分からない少年は、家に帰って祖母にその時のことを話してしまいます…

ここまでで約30ページ。裏表紙にあらすじが書いてありますが、それはラスト30ページのこと。その間には主人公が成長するにしたがって、様々な経験と共にキリスト教への信仰に目覚めていく過程が描かれる心の成長記です。

この話しは「あとがき」にもありましたが、実際にあった事故が下地にあり、事故の事実以外は、自己犠牲のキリスト教の精神に感銘を受けた著者の創作です。著者は小説を通して、はたして敬虔な教えをもとに行動し、私的な人生を省みずに人命を救うことができるのかという自己犠牲について問いています。自分が同じ立場になったら、残される人のことが脳裏に浮かんでしまい、おそらく無理でしょうね。

主人公は、クリスチャンになった後は、人間味溢れる人物描写が少なくなっていき、まるで聖人のようになっていくので、無理と考える自分が宗教と関係のない日常を過ごしているせいかもと思いました。しかし、聖人になるより、自分は日々を誠実に生きていきたいとは思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月22日
読了日 : 2024年3月22日
本棚登録日 : 2024年3月17日

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コメント 2件

雷竜さんのコメント
2024/03/22

高校1年性の頃読んだのですが、とても感動して友達に渡したら、なんてくだらない本だと言われた記憶があります。そしてそれから50年後に年寄りになって、オーディブルで聴いたのですが、あまり集中できませんでした。夏目漱石は何度読んでもジンときますよね。
たぶん、自分の心が汚れてしまったのか?キリスト教の歴史を知ってしまったからなのか?
そんな思い出を思い出させてくれて、ありがとうございます。

Marさんのコメント
2024/03/22

この事故は、あとがきの補遺の藤原氏の発言にもありますが、氷に足を滑らせて線路上に真っ逆様に転落し、客車の下敷きになったのが真相だと思います。客車の重量を考えると、人一人が飛び込んだところで止まる訳がないですからね。それまでのハンドブレーキが効いていたのでしょう。

事故で殉職された方は、立派な聖職者だったみたいなので、自ら飛び込んだという美談に仕立て上げられたのが真相と思われます。

と、自分もそんなことを思いながら読み終わったので、そう思いつめない方がいいですよ。本を読むタイミングも、その時々で変わるものなので気にしないことですね。

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