地球上のあらゆるコンピュータネットワークを掌中に収め、脳と一体化させた時、その人物は全知の神となるのか。そんな壮大なテーマを扱ったSF。ネットワーク上で<魔術師>と呼ばれる凄腕ハッカー達による、世界の支配を巡る攻防を描く。160頁程度と薄いこともあり、あっという間に読み終わった。
ネット世界<別平面>へ脳神経をつないで没入しハッカー活動をするところ等、ニューロマンサーや攻殻機動隊に時代や設定、ストーリーが非常に近い。(攻殻にも「超ウィザード級」ハッカーが出てくるしね。)2012年現在でも幾多の作品で扱われているテーマではあるが、何せ書かれたのが1982年である。1984年のニューロマンサーより前だ。インターネットという仕組みがやっと大学やら軍やらに出てきた頃。その時点でここまでネットワークと人の関係の行く末を見抜いていたのかと、その先見性に驚愕。この設定だけでも十分先見性に溢れているのだが、物語の終局では人が到達する更にその先の未来図が描かれており、またも驚かされた。ネタバレが酷くなるので詳しくは書かないものの、また攻殻を思い出してみたり。
原題は『TRUE NAMES』。現実世界での名前を<真の名前>と呼び、これがバレると何せ犯罪者たるハッカーは現実世界で死んだも同然、そしてネットでも活躍できなくなるところも、現在の「ハンドル・匿名論争」を彷彿とさせて面白い。
そして面白かったのは先見性だけではない。ネット世界<別平面>の描き方が面白いのだ。「魔術師」の用語が特徴をよく表しているが、そこはまるでファンタジーの魔法世界。主人公の根城<魔窟>に入るためにトカゲのアラン君(アラン・チューリングのアラン!)と魔法で攻防するなど、高度に進んだ科学は魔法と見分けがつかない、っていうか魔法そのもの!
これ、1982年に今の年齢で読んだとしても、全然意味が分からなかったかもしれないなぁ。あー私も早く電脳化してネットの海に漕ぎ出したい。
(中身の濃い解説が30頁もあり、若島正さんのおちゃらけ後書きがあるのもご愛敬。)
(「エリは、やはりぼくのエリなのだ」182頁。このほか、ヒロインのエリを見ながらSWEの映画『ぼくのエリ』を思い出していた。)
- 感想投稿日 : 2012年4月5日
- 読了日 : 2012年4月3日
- 本棚登録日 : 2012年4月3日
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