虞美人草 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1951年10月29日発売)
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本棚登録 : 1951
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「甲野さん。頼むから来てくれ。僕や親父のためはとにかく、糸公のために来てやってくれ」
「糸公のために?」
「糸公は君の知己だよ。叔母さんや藤尾さんが君を誤解しても、僕が君を見損なっても、日本じゅうがことごとく君に迫害を加えても、糸公だけはたしかだよ。糸公は学問も才気もないが、よく君の価値を解している。君の胸の中を知りぬいている。・・・僕は責任をもって糸公に受け合ってきたんだ。君がいうことを聞いてくれないと妹に合わす顔がない。たった一人の妹を殺さなくっちゃならない。糸公は尊い女だ、誠のある女だ。正直だよ、君のためならなんでもするよ。殺すのはもったいない」

甲野は哲学の研究者。継母と妹からは、社会的地位もなく、ふらふらした情けない人と蔑まれている。
だけど、親友の宗近は、甲野の本質を見抜いていて、人付き合いを避ける甲野を何かと気にかける。

宗近の妹糸子は甲野を慕っているけれど、甲野が何気なくいった「あなたはお嫁に行かないで、そのままのほうがいい」というひとことに縛られて、気持ちを伝えられない。

上の会話は、妹の気持ちを知った宗近が、家出しようとする甲野のところに来て、自分の家に来るよう説得する場面。
(私の筆力ではエッセンスを抜き出せず、引用・・・)

恋愛は、動物みたいに求めあう面だけがクローズアップされがちだけど、それだけじゃない。
自分を理解してくれる誰かがいること。理解したいと思う誰かがいること。その幸せに気づかせてくれた作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 恋愛
感想投稿日 : 2011年9月30日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年9月30日

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