毎回のことですが、よくもここまで細かく多くの人の心の動きや生活の営みを描けるなぁと驚かされます。住井すえさんの、登場人物の一人一人への愛情を感じます。そのおかげで私も畑中家を始めとする人達が大好きになりました。同じく子を持つ女性目線で、ぬいやふでの孝二に対する思いやりや心配、家計の切り盛りのあれこれには特に感情移入してしまいます。突然来客があり、慌ててありあわせのもてなしをする場面や、孝二の外出のために行き届いた支度をする所など、すごくリアルと思います。そしてそれにしっかりと応える孝二が頼もしく、愛おしいです。
農作業の大変さと、奈良の自然の色々な表情にも、水平社の動きと同じくらい惹かれます。つい100年前まではこんな生活をする国民が大部分だったんだと、戸惑いの様な寂しさの様な気持ちになります。重労働や夜業の合間に交わされる会話だからこそ重みがあるように感じました。文盲でも、畑と家に縛り付けられている生活でも、深い知恵や愛情を湛えているぬいにこの巻でスポットライトが当たったことに感動しました。
孝二が国粋会の人達と言葉でやりあう場面は息を詰めてしまう程でした。理路整然とした話の運び方がとても勉強になります。
まちえがただのお金持ちのお嬢様でなかったことには拍手喝采でした。豊太宛の手紙から伺える真摯さに、まちえと孝二が結ばれたら良いのにな…と思ってしまいます。
あとは、聞き慣れない日本語が多く、語彙力が広げられることも良かったです。
本当に、書ききれないほどの感想が出てくる本で、自分の子供達にもいつか読ませたいです。
- 感想投稿日 : 2020年11月9日
- 読了日 : 2020年11月9日
- 本棚登録日 : 2020年11月9日
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