橋のない川(七) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1994年7月28日発売)
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感想 : 21
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印象に残ったのは、信吉(だったか?)が肉牛のアスカを大切に育てて、それが事もあろうに皇太子夫妻に供されるという話でした。実話をもとにしたエピソードなのかは分かりませんが、数え切れないほど話題に上った天皇家と小森がここでつながるか…と皮肉です。大人が「末代までの栄誉」と有難がる中、1人涙する信吉の、働く普通の人達に美味しい美味しいと食べてもらいたかった、という心の叫びが辛かったです。学費捻出のために牛を一頭育てるという発想は生まれて初めて聞き、それ程までして勉強したいという熱い気持ちを現代では持ちにくいだろうなとか、農家のやる事ってスケールが違うなぁと思いました。信吉ほど家畜を丹精に育てる事は普通はないでしょうが、家畜肉を食べることの重大さを考えました。一次産業がどの様に営まれているか、どれだけ大切で大変かを、本書のあらゆる情景と共に胸に刻み付けられました。

最初にこの小説のあらすじを聞いた時、もう現代で部落差別は無さそうだし読む意味があるかな?と思っていましたが、書かれている事は普遍的なことばかりで、インドのアウトカーストにそのまま置き換えられそうですし、根本的な差別意識は私の中に形を変えてあると気付かされもしました。

また、扱うテーマが、思いつく限りでも人権、天皇制、農業、政治、経済、宗教、家族、地方と都会、戦争、教育、歴史、地理…と多岐にわたるので、これを読めばあらゆる問題意識や知識が与えられるので、いつか必ず子供に読ませたいです。

解説を読み、「大河小説」という名前が本当にふさわしいなと同感しました。明治生まれの地方の農家の女性が本気を出して書いた小説の貴重さを感じます。戦後になって70歳から書き始めたとのことなので、あらゆる事を踏まえて、満を持しての内容になったのかなと思います。

第1巻から読み始めて約1ヶ月半、現代の東京での家事育児生活の中、本を開いては小森の人達の人生を追体験させてもらいました。100年前に日本で命をかけて水平宣言を生み出してくれた人達に感謝をし、その精神を自分なりに引き継ぎたいと思います。

今までで一番くらい影響力のある読書体験でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月18日
読了日 : 2020年11月18日
本棚登録日 : 2020年11月18日

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