([た]6-1)青い約束 (ポプラ文庫 た 6-1)

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  • ポプラ社 (2012年8月7日発売)
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アナリストの修一と新聞記者の有賀。高校時代のある事件をきっかけに絶縁していた二人の再会。現在と過去を描きながら、事件の真相が明かされるという話。

事件の真相自体は驚きに満ちたものではなくベタな話。しかし、修一の仕事がアナリストであることから、国債発行や経済情勢、金融機関や財務省の思惑等が織り交ぜられていて話に奥行があった。経済小説などを全く読まない人には理解しづらい部分かもしれないが、個人としての仕事へのプライドと組織の論理との間で苦しむ現在と、仕事に理想を抱いていた青い時代がリンクしていて、良い構成だと思った。

仕事に対してアツい気持ちを持ち続けられる男性って素敵だな。周りの評価に甘えて、泣くほど必死に働けなくなったのはいつからだろう。褒められたり気遣われたりする度に自己嫌悪と閉塞感しか感じられない自分が嫌だ。心を殺さないと利益をうめない仕事って何なんだろう。


*以下引用*

* 俺、思うんだけどさ、経済成長の目的ってさ、競争でみんなが疲弊するためのものじゃないはずだよ。(p36)

*確かに最低限の経済の豊かさってのは必要なんだが、貧しい国を無理やり成長させればいいっていう話じゃないんだよなぁ。むしろ逆で、そんなやみくもな成長の競争じゃあ、問題はさらに悪化する。産業革命時代のイギリスや明治の頃の日本みたいに、労働者が朝から晩までこき使われて工場の中でたくさん死んでいったり、水俣病やイタイイタイ病みたいに、企業が環境を壊してしまってそこでまた人が苦しんだりする。大事なのは、そこに属している人が本当に豊かになる成長のあり方、人が経済の犠牲にならず、環境も壊さない成長のあり方なんだ。そういうまるきり新しい枠組み、メカニズムを、誰かが見つけないと駄目なんじゃないかなぁ (p39)

*金利情勢次第ではあるが、基調としてはこれから銀行は、リスクを避けるために国債の保有高を少しずつ減らしていくだろう。同時に円が急落してもいいように、さまざまな形でヘッジをかける。確率がそれほど高いとは思っていないものの、もし実際に極端な円安が起きたなら、今まで通り何が起きているかも知らされなかった個人が逃げ遅れ、営々と働いて積み上げた円資産の暴落を呆然と見守ることになりかねない。 (p85)

*でもこの国の抱えてる構造的な問題はより大きいから、長期的には少しずつこの国は沈んでいく。そしてみんな、この先に待ってるものをうすうすわかってるのに、知らない振りをして笑っている (p171)

*星も同じだよな。ここに見えている光のうち、すでに星そのものは消えてしまって、光だけが届いているものがあるだろう。この街の様子は、それに似てると思わないか。本当はすでに死んでしまっている星の、昔の光。(p173)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年1月14日
読了日 : 2015年1月14日
本棚登録日 : 2015年1月14日

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