アル中探偵マット・スカダーシリーズの中でもターニングポイントになったであろう作品。
その前作の「八百万の死にざま」で、それまでかたくなに拒んでいた「自分はアル中である」という認識を告白したスカダーを見て、もうこのシリーズはおしまいかもと思っていたら、この作品が出た。
もうお酒を飲んでいないスカダーが、お酒を飲んでいた時代の事件を思い起こす、という形式で語られるこの作品。酒を飲む人間にとって、酒場とはどんな意味合いがある場所なのかと痛烈に感じさせる。
事件はふたつ。裏帳簿を盗まれた酒場店主からそれをとり返すためにお金を払いに行くのに付き合って欲しいと頼まれたこと。
妻殺害の疑惑をかけられたセールスマンから、その疑惑を晴らして欲しいと依頼されたこと。
だが、このシリーズは事件解決に向けての謎ときを楽しむというよりは(もちろんそれも楽しいのだが)、文章に刻まれているスカダーの感情や、しんみりとした雰囲気、ちょっとだけ裏のニューヨークの空気を感じることのほうが楽しいものだ。
もうひとつのシリーズ、「泥棒バーニィ」シリーズがカラッと晴れた昼間のような作品であるとすれば、スカダーシリーズは夜から夜明けに移る瞬間のようなシリーズの雰囲気となっている。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
ハードボイルド
- 感想投稿日 : 2015年7月25日
- 読了日 : 2004年3月25日
- 本棚登録日 : 2015年7月25日
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