今回は本当にシナリオが良かった。
切なさも、強い憎しみも、抗えない時間の長さも、そんな言葉にも形にも出来ない感情を、本当に丁寧に描いていたと思う。
まるで自分の身内が事件を起こしてしまった張本人のような、そんな複雑な気分にまでさせられた。
決して奇抜な事件を描くのでなく、まさにどこにでも転がっていそうな事件をこうまで胸を抉られるほど鮮やかに描かれてしまうと、もう何も言えない。
見事、としか。
また、滝沢がなんだかんだ言いながら、音道に信頼を寄せているのがいい。
格好いいことを言うでも、どこぞのヒーローのように音道を救ったりするでもなく、だがしっかりと彼女を受け止め、同じ歩幅で歩こうと努力しているのが、もう堪らん!
どうしたらこんなにも緻密に人間を描けるのか。
乃南アサの音道シリーズでは、いつも思わされる。
自分が実際に全てを傍で聞かされ、一部始終を見てしまったかのような錯覚にまで襲われてしまうのだ。
また、貴子が苦しめられる、女子との付き合いの中に生じる日常風景にも、同性として分かりすぎる面が多くて、いつも本当に翻弄させられる。
一度読み始めてしまったら、貴子と同じ責務を背負わされてしまったかのように、苦しく、逃れられない時間が始まるのだ。
だが、それがとても心地いいのも事実である。
最後が淡々と終わるのも、好きだ。
ラストシーンでは、もしかしたら昴一とはこのまま自然と別れてしまうのかもしれない、いやでもこのまま答えを不透明にさせたまま、ズルズルと続いていくのかも知れない……などと楽しく想像を廻らせてもらった。
次回作では、うっかりちゃっかり玉城と結婚でもしてる状態から始まるんじゃないかと、今から妄想しつつ、期待(笑)
- 感想投稿日 : 2010年1月15日
- 読了日 : 2010年1月15日
- 本棚登録日 : 2010年1月15日
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