技術革新と不平等の1000年史 上

  • 早川書房 (2023年12月20日発売)
3.67
  • (1)
  • (3)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 50
感想 : 2
5

気鋭の経済学者、アセモグルとジョンソンによる新著です。技術革新とそれが人々の所得にどのような影響を与えてきたかについて、歴史を振り返り丁寧に解説しています。著者の主張を一言で言うなら、「技術進歩の恩恵を多くの人が受けられるかは必然ではなく選択次第だ」ということです。冒頭で、技術進歩が労働者の「平均生産性」ではなく「限界生産性」を引き上げるかに注目すべき点が書かれていますが、これは基本的とはいえ忘れがちな視点だと思います。人間を代替するオートメーション技術を導入したことで、社員の数を減らしつつ生産量は変わらないとすると、社員1人当たりの平均生産性は上がりますが、これでは社員の給料は上がりません。そうではなく社員が1時間当たりに生産できる量が新技術によって増えることで(限界生産性向上)、やっと賃金上昇の「可能性」が生まれるわけです。

しかしこれはあくまで可能性であって、実際に限界生産性向上が賃上げにつながるかは、その時の社会で意思決定権を握っている人々の選択次第です。そこで2つ目の視点として、「説得する力」つまり時代や場所によって支配的となる思想、ビジョンが重要になるわけです。そして著者らは、現代社会に多く見られる技術楽観主義に対して警鐘を鳴らし、過去の歴史の例を紐解きながら、新技術の導入が、場合によっては大勢を不幸にする(例:パナマ運河建設)のに対して、状況によっては大勢の生活水準を向上させることもある(例:蒸気機関車の発明)のを示します。支配的となりつつあるような思想、ビジョンに対して我々市民はいかに注意深くなければならないか、というメッセージが込められていると感じました。下巻も楽しみです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月17日
読了日 : 2024年2月25日
本棚登録日 : 2024年4月17日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする