養老さんの講演を収めたもの。全部で八つの講演が収録されていて、都市と自然について触れている部分がとても多いです。
この本でとりあげられている都市の象徴は天王洲とみなとみらい。とことん人工的で、地べたからすべて人間が設計して作りあげた、養老さん式に言うと「ああすれば、こうなる」が形になったところ。その対極にある自然の象徴は屋久島と白神山地。ここを養老さんは「人間とできるだけかかわりのないところ」で「使いようがありません」と言います。
そしてその中間にあるのが里山。これは自分が作ったものではない、自分の思いどおりにならない自然を素直に認め、「それをできるだけ自分の意に沿うように動かしていこうと」する人々の働きかけによってできたものです。そしてその働きかけこそが「手入れ」なのです。
里山風景というのは、決してそれを作ろうという意識が作り出したものではなくて、こうやったら農作業がしやすいとか作物がうまく作れるとか、そういうことを考えて人々が努力して工夫してきた結果できたもの。そしてそれは人にとって使い勝手がよく、目で見ても美しい。
これを養老さんは子育てやお化粧に例えます。子育てには「こうやれば大丈夫」ということは一つもない。こうやれば永遠に美しく若くいられる、という魔法もない。到達点は見えないけれど、それでもよりよくしようと日々努力してきちんと整えていこうとする、それが「手入れ」で、それをやっていれば出来上がりが大きく間違うことはないだろうと。とても共感できました。生きていると思いどおりにならないことばかりありますが、結局は日々よくなろうと努力するしかないのだから。
死んだ時に心がなくなるとしたら、人が死ぬ時に体重を計ったら心の重さが分かるだろうと、それをやってみた人がいる、という話。死は具体的なある瞬間ではなくて、人はそれぞれの器官がバラバラに死んでいくのだという話。言葉と音楽と絵は人間の「表現」の典型で、本来これらは同じものであり、それを別物と区別しているのは人間の意識であるという話。とても挙げきれないくらい面白い話がたくさん出てきます。
養老さんのお父さんの死について語られる部分では、きっと彼らしく飄々と話されたのでしょうが(実際彼の講演に行ったことがあるので、声が聞こえる気がしました)涙が出ました。
養老さんはブレなくて、どの講演でも基本的に同じことを繰り返し言っています。でも、講演をする場所、語る相手によって切り口が違う。それが面白いと思います。
- 感想投稿日 : 2014年1月1日
- 読了日 : 2014年1月1日
- 本棚登録日 : 2014年1月1日
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