「わが国の鉄道が日本資本主義成立期の市場形成過程にもったその意義と限界を改めて問い直すことを課題」(p?)とした一書。
鉄道網形成の軍事的意図という研究史上の評価は肯定しつつも、一方で地方経済の自立的展開の可能性にも着目し、政府の意図から外れる地域経済の要求に即したさまざまな鉄道計画があったことを明らかにしている。
そのうえで、最終的には関東においては東京を中心した一元的・放射的鉄道網の形成という政府の意図に、それら地域経済の自律的展開の可能性は屈服させられていったとする。そしてそのことは、産業資本確立期における日本資本主義の構造的特質―すなわち、軍事によって展開せしめられた資本主義の跛行的成長―の一端を表現していると、結んでいる。
「東京を中心として放射状に広がる鉄道網」というのは、日常的な感覚ではごく当然のようである。「そりゃ東京が首都なんだから、当然でしょ」という感じで。でも、この本では実はそこには政策的・軍事的意図があったとし、さらに多様な地域における鉄道の可能性があったことを記している。要するに、日常に定着しているものの歴史的形成過程を見ることで僕らの「当然」という感覚に疑問符をつけてくれるのだ。その意味で、面白かった。
ただし、「軍事に従属する経済」という観点は、松下孝昭による山陽線の分析によって疑問符がつけられている。あるいは青木栄一が説いている「地形による路線の必然的決定」という観点も、老川の説明に反駁をなすものだろう。この点で、鉄道史研究も着実に前進しているのだなあ…という印象である。
- 感想投稿日 : 2009年3月22日
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- 本棚登録日 : 2009年3月22日
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