「学校」をつくり直す (河出新書)

著者 :
  • 河出書房新社 (2019年3月19日発売)
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 今の学校の問題点はどこにあるのか?
 現場で,同時に起こるたくさんのできごと(それは教育研究も不登校対策もいじめ対策も…)にいちいち対応することで,教師は多忙になり,精神的にしんどくなり,そしてそれだけしてがんばっても,子どもたちにとっては決していい環境とはいえない学級でしかできない空しさ。
 著者は,それらの事柄はシステムにあると言います。

今学校が抱えている問題の本質は,一人ひとりの先生や個々の学校にあるというより,むしろもっと構造的なこと,つまりシステムにこそあるのです。ー中略ー一見,別々に見えるこれらの問題も,その根っこはすべてつながっています。だから,個々の問題状況にだけ目を向けても,抜本的な解決策を見出すことはできません。根っこの問題,教育のシステムそれ自体の問題を解決しなければならないのです。(4ぺ)

 さて,具体的な学校の問題の指摘についても,けっこううなづきながら読めます。
「落ちこぼれ」については,

多くの人は「落ちこぼれ」は,その子の理解力が低いから生まれるものだと思っているのではないかと思います。でも,実は,これはシステムによって構造的に引き起こされている側面が非常に大きいのです。/考えてみれば当然のことです。みんなで同じことを,同じペースで勉強していれば,一度つまづくと,そのまま取り残されるということがどうしても起こってしまうからです。(19ぺ)

一方その反対の「吹きこぼれ」については,

すでに分かっていることを,何度もくり返し勉強させられることで,勉強がいやになってしまう子どもたちのことです。-中略ー今日の「めあて」をみんなで一斉に唱和するのに始まって,教科書の決められたページをみんなで繰り返し読んだり,すでに分かっていることを一方的に教えられたり。四五分もの間,なぜみんなと同じことをやり続けなければならないのか。そう思っている子どもたちはたくさんいます。(23ぺ)

 これらの問題は,いずれも,150年来続いている「みんなで,同じことを,同じペースで,同じようなやり方で」やってきたから起きることだといいます。だから,その根本を変えないと,こういう子どもたちはドンドンできるわけです。そして,子どもたちに「同じことを」もとめる教師たちの指導もまた,当然のように「同じことを」求められるられます。それが昨今のスタンダードと言われるものです。
 このような学校現場に浸透するスタンダード化については,次のような例を挙げて批判しています。

マリア・モンテッソーリは,すでに二〇世紀初頭にこんなことを言っています。子どもたちを,大人が決めた規律で縛りつけること,管理し統率すること,それは,子どもたちを規律正しくしているように見えて,実は命令されたことしかできない「無力」な存在にしてしまっているだけなのだ,と(25ぺ)
教育学の多くの研究が明らかにしているのは,過度のマニュアル化,スタンダード化は,かえって教師の力,そして子どもたちの力を著しく奪ってしまうと言うことです。ー中略-教師にとっても子どもにとっても,成長のために必要なのは,言われたことを言われたとおりにさせられることではなく,自分の頭でしっかり考え,試行錯誤し,たっぷり失敗し,その失敗から学んでいく経験であるはずです。(56ぺ)

 このように,画一的な指導法がまかり通っている今の教育界は,だからこそ,もう先が見えている(限界が来ている)とも言えます。画一的にすればするほど,自分の頭で考える教師はいなくなり,自分の頭で考える子どもたちもいなくなる。それは,同時に,教育というものを放棄したような現場だけが残るという荒廃した未来しか見えません。これでは,日本だって立ちゆかないし,それこそグローバルなんてことに対応できないでしょう。
 われわれはだから原点に戻る必要があります。モッテッソーリに…です。
 
「信頼して,任せて,支える」。これは一つの教育の秘訣です。いや,秘訣なんて大層なものではなく,本来は教育の基本中の基本です。でも,わたしたちは時にこの基本を忘れてしまいます。「信頼して,任せて,支える」ことは,ある意味とても怖いことだからです。/でもやっぱり,それこそが教育というものの本当は基本であるはずなのです。(216ぺ)

 窮屈な教育界を脱却するには,教育の基本にもどれば良いのです。なんだ,それならできそうだとは思えませんか? ただ,それをやろうとすると,「きちんとさせろ」「指導しろ」「見映えを良く」…という同調圧力を感じるかもしれません。でも,そこで負けていてはいけない。やはり,基本は基本。大切にしていきたいものです。

子どもたちの姿こそ,実践者にとっては最大の説得力なのだと思います。(223ぺ)

 子どもの方を向く教師でありたい。これもまた教育の原点であるはずです。
 著者は,自信が考えるある程度理想的な学校として,幼小中「混在」校,「軽井沢風越学園」という学校の設立準備をしているそうです。2020年に長野県軽井沢で開講予定だとか。どんな学校ができるのか注目していきたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教育一般
感想投稿日 : 2019年6月5日
読了日 : 2019年6月5日
本棚登録日 : 2019年6月5日

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