北條民雄「いのちの初夜」
ハンセン病に罹った主人公・尾田は、人生に絶望して死のうと思いながら、死に切れぬまま病院まで来てしまう。病院でハンセン病に罹りながら重症患者の世話をする義眼の男・佐柄木に出会う。彼とのやり取りの中で、新しい生きる道を模索し始める。本書の冒頭で、「死のうとしている自分の姿が、一度心の中に入ってくると、どうしても死に切れない、人間はこういう宿命を有(も)っているのだろうか」と言わせている気持ちが良く分かる。人は死のうとして死ねるものではない。しかし、ふとした瞬間に死ねるものでもある。狂おしいほど死にたいと考えるほどに死ねないのだと思う。当時、人が醜悪なものとして扱い、誰もが遠巻きにするハンセン病、主人公はなんと深い闇に落ちたものか。それでも死ぬことよりも生きることを考え始める姿が力強い。著者の北條氏自身がハンセン病を病み、若くして亡くなった。生への、あるいは、創作への強い意欲を感じる作品である。世の中にあまり知られていないことがもったいないと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2014年10月14日
- 読了日 : 2014年10月14日
- 本棚登録日 : 2013年12月18日
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