シーシュポスの神話のカミュは全宇宙どころか爪切り一個にも押し潰されそうなところがあって、そこがいい。痛みというのは理解不能で、カミュはその上になにものも築かない。あれだけ慎重に結論を避けながら、しかも、爪切りのもたらす身体的な痛みには耐えない(耐えられない、耐えようとしない、耐える必要を考えない)。これは素晴らしい姿勢だと思う。ある苦痛に耐える者は彼にとっての必要上、あくまでそれに耐えようとするのだが、それより卑小と感じられる苦痛にもつい耐えてしまうものだ。せっかく耐えがたい苦痛を耐え忍んでいるのだから、それよりずっと耐えやすいとみえるものに耐えないことで自分の負った苦痛を台無しにしたくないと考える。このようにして彼は耐えないことに耐えられないのだが、それこそが彼の負った苦痛を台無しにするのである。
しかし、カミュはつねに耐えている。ただ耐えるべきものを耐え、踏みとどまっていることが誠実さだと感じさせてくれる。
痛みを耐えない僕にとってシーシュポスの神話は鎮痛剤として必要なものだ。胃に優しくて早く効く。
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- 感想投稿日 : 2014年12月18日
- 読了日 : 2014年12月18日
- 本棚登録日 : 2014年12月18日
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