西行 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1996年5月29日発売)
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(2012.11.01読了)(2006.07.02購入)
【平清盛関連】
「西行」に関する、「伝記とも紀行文ともつかぬもの」(304頁)です。
西行が行ったと思われる場所、住んだと思われる場所には、できるだけ足を運んだようです。その際には、郷土史家などに案内を頼み、同行してもらったようですし、なかなか場所がわからない時には、その辺に住んでいる方々に聞いてみると、結構わかることが多いようです。寂れて、忘れられているのもさみしいけれど、よく整備されて、昔の面影をしのぶことのできない、と言うのも困りものという、ジレンマもあるようです。
類書の「白道」瀬戸内寂聴著、を先に読んだのですが、「白道」は、西行と待賢門院璋子に重点があったので、内容的に重複している感じはありませんでした。
写真や地図なども割と掲載されているので、この本を頼りに、西行の足跡をたどる時にも、役立ちそうです。198頁には、西行と平清盛との交流を裏付ける書状も掲載されています。

【目次】
空になる心
重代の勇士
あこぎの浦
法金剛院にて
嵯峨のあたり
花の寺
吉野山へ
大峯修行
熊野詣
鴫立沢
みちのくの旅
江口の里
町石道を往く
高野往来
讃岐の院
讃岐の旅
讃岐の庵室
二見の浦にて
富士の煙
虚空の如くなる心
後記
西行関係略年表
数奇、煩悩、即菩提  福田和也

●西行が殴られた時に作った歌(21頁)
 うつ人もうたるる我ももろともに
 ただひとときの夢のたはぶれ
●西行の出家の理由(38頁)
彼は世をはかなんだのでも、世間から逃れようとしたのでもない。ひたすら荒い魂を鎮めるために出家したのであって、西行に一途な信仰心が認められないのはそのためである。荒馬を御すことはお手の物だったが、相手が自分自身では、そう簡単に操れる筈もない。それに比べると、天性の歌人の資質は、彼の心を和らげるとともに、大和言葉の美しさによって、「たてだてし」い野生は矯正され、次第に飼いならされてて行ったであろう。
●吉野の桜(99頁)
西行以前に(吉野の)桜を詠んだ歌が少ないのは、平安時代までの吉野山は、山岳信仰の霊地として、めったに人を近づけなかったためで、行者道や杣道が細々と通っているだけの険阻な秘境であった。稀に桜を詠んだ歌はあっても、いずれ遠望するか、話に聞くだけの名所であって、西行のように花の懐深く推参し、花に埋もれて陶酔した人間はいないのである。
 なにとなく春になりぬと聞く日より
 こころにかかるみ吉野の山

 吉野山梢の花を見し日より
 心は身にもそはずなりにき
●奥州藤原氏(154頁)
奥州の藤原氏と西行は同族で、秀衡とはほぼ同年輩であったから、平泉ではいろいろ便宜を計ってくれたに相違ない。
●高野聖(186頁)
高野聖というのは、早く言えば伊勢の御師や熊野比丘尼と同じように、津々浦々を遍歴して、高野山の宣伝につとめる半俗半僧の下級僧侶である。彼らは民衆のなかに入って、寺の縁起や物語を説くことにより、勧進を行った特殊なグループで、芸能に優れていたので後世の日本の文化に大きな影響を与えた。
●保元の乱(202頁)
忠通は、忠実の長男で、実直な父親とは違って、奸智にたけた政治家であった。一方、次男の頼長は、愚管抄に、「日本第一の大学生」と称賛されたほどの大学者であったから、父親に愛され、兄の忠通とはことごとに反目し合っていた。どちらかと言えば、一本木で、融通のきかない忠実・頼長父子と、天才的な策士である忠通との二派にわかれた摂関家の内紛が、皇室の内部にまで影響を及ぼし、保元の乱の要因となったことは疑えない。
●讃岐に流された崇徳院(214頁)
保元物語その他が伝えるところによれば、最初の三カ年がほどは、後生菩提のために、(崇徳)院は自筆で五部の大乗経を書写し、安楽寿院の鳥羽陵へおさめることを希望されていた。「浜千鳥」の御製は、都へお経を送ったときのものだといわれている。が、その望みは、断固退けられた。後白河天皇、と言うよりその側近の信西入道によって、突っ返されて来たのである。讃岐の院は、烈火の如く憤り、この上は三悪道に堕ちて、大魔王となり、子々孫々まで皇室に祟りをなさんと、それより後は爪も切らず、髪も剃らず、悪鬼のような形相となって指を喰いちぎり、その血で経巻の奥に誓詞を書かれた。

☆関連図書(既読)
「平家物語(上)」吉村昭著、講談社、1992.06.15
「平家物語(下)」吉村昭著、講談社、1992.07.13
「清盛」三田誠広著、集英社、2000.12.20
「平清盛福原の夢」高橋昌明著、講談社選書メチエ、2007.11.10
「海国記(上)」服部真澄著、新潮文庫、2008.01.01
「海国記(下)」服部真澄著、新潮文庫、2008.01.01
「平清盛-「武家の世」を切り開いた政治家-」上杉和彦著、山川出版社、2011.05.20
「平清盛 1」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2011.11.25
「平清盛 2」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2012.03.30
「平清盛 3」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2012.07.30
「西行」高橋英夫著、岩波新書、1993.04.20
「白道」瀬戸内寂聴著、講談社文庫、1998.09.15
☆白洲正子さんの本(既読)
「巡礼の旅-西国三十三ヵ所-」白洲正子著、淡交新社、1965.03.30
「能の物語」白洲正子著、講談社文芸文庫、1995.07.10
「遊鬼 わが師わが友」白洲正子著、新潮文庫、1998.07.01
「いまなぜ青山二郎なのか」白洲正子著、新潮文庫、1999.03.01
「白洲正子自伝」白洲正子著、新潮文庫、1999.10.01
「十一面観音巡礼」白洲正子著、新潮社、2002.10.25
(2012年11月7日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 白洲正子:随筆
感想投稿日 : 2012年11月7日
読了日 : 2012年11月1日
本棚登録日 : 2012年10月30日

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