怪奇現象を扱ったのは初編だけで、全体としては震災死をテーマとする論考集である。
故人や遺族にとってはその人だけの唯一の死であるにもかかわらず、1万5000人以上が一時に亡くなるという状況下において、個々の死は個々として扱われずに概念化・抽象化されてしまう。あるいは、生活していた共同体ごと失われて、生きていたことの証さえもが無くなってしまう。
平時、死から目を遠ざけてきた近代社会の脆弱性という捉え方をされているが、むしろこの震災が戦争にも匹敵するような例外状態だったというべきだろう。
フィールドワーク、論考とも、やや物足りない感じもするが、学部生のゼミの成果としては十分だろう。単年度で成果を出さないといけない事情はあるだろうが、拙速に結論を導かずに、十分なフィールドワークを重ねて欲しい。
テーマの本筋からは外れてるような気がしたが、一番面白かったのは、火葬場が追いつかないので仮埋葬した数百の遺体を、改葬のために再度短期間で掘り返すというプロジェクトを請け負った葬儀会社の話。梅雨場、猛暑という劣悪な環境での重労働を脱落者なしで完遂できたのは、感情労働・感情管理によるものであったという。
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- 感想投稿日 : 2016年2月4日
- 読了日 : 2016年2月4日
- 本棚登録日 : 2016年2月4日
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