本は死なない Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」

  • 講談社 (2014年6月19日発売)
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本棚登録 : 291
感想 : 48
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2014/8/15読了。
電子書籍の話題になると、とかく「紙の本は滅びるのか?」という方向へ話が流れがちだが、本の何かが滅びるのではなく形が変わるのだというのが著者のスタンスである。原題「BURNING THE PAGE」はそういう意味だ。燃えてなくなるのはPAGEであってBOOKではない。ページすなわち物体としての形がなくなることは本が死ぬこととイコールではない。邦題はこれを分かりやすく言いなおしたものだろう。
他の電子書籍語りのビジネス書と一線を画すのは、著者が電子書籍を書物の歴史の延長線上に明確に位置づけていることだ。ITガジェットやコンテンツビジネスではなく、書物の歴史である。
書物はかつて形を持たなかった。記憶を口承していたからである。やがて粘土の板の形になり、パピルスの巻物の形になり、羊皮紙を糸で綴じたものになり、紙が使われるようになったが、文字は人が手で書き写すものだった。いま私たちが「本」と呼んでいる紙の印刷物は、グーテンベルクの活版印刷システムや産業革命の蒸気機関などテクノロジーの発展によって生まれた、書物の最新廉価版バージョンに過ぎない。次のバージョンは電子でできたものになるだろう、というのが本書の立脚点である。
紙か電子か、儲かるか儲からないかの二極論になりがちな中、この史観を踏まえて未来を語る視点はなかなか貴重である。本書は未来を語る本であると同時に、現在を歴史に位置づける本でもある。

実際、歴史に学ぶことがこれほど有効な局面もないだろう。現在の電子書籍の状況のことだ。
いま愛惜をもって語られる紙の本だって、かつては「こんなものは本ではない」と、それまで自分が慣れ親しんできた本の姿に愛着を持つユーザーからは見下された新参者だった。著者はこの例として、活版印刷された文字を「温かみがない」と言って嫌った16世紀の手写本ユーザーを挙げる。活版印刷がオフセット印刷に切り替わった20世紀の日本でも同じことを言う人がいた。21世紀の今、機械の画面の文字に対して同じことを言う人がいるのは、歴史が繰り返されているだけの話であって、いずれそのような人々はいなくなるだろう、と見通すことができるわけだ。

こういう前提に立って読書の未来を語る本書だが、著者が提示する未来像の様々なディテールを「予言」のように鵜呑みにして、あり得ないとか当たった外れたと評するのは、本書の正しい読み方ではないだろう。
「あなたはどうだろう」「あなたの意見を聞かせてほしい」と著者がコラムで繰り返し促しているように、私たちが考えてみる出発点となるために、少し広い認識を用いて例題を解いてみせるのが本書の目的だろうと思う。
だから、本書の内容がすでに若干古くなっていることや、著者の予想の中に到底実現しそうもないものが含まれていることなどは、まったく気にしなくていいことだ。本書に書いてあることではなく、本書を読んであなたが考えたことのほうが大切だ、というのが著者の想いだろう。著者が望む将来の電子書籍の在り方も、そういったもののようだ。

と、ここまでこんなふうに感想を述べてきて言うのも何だが、個人的には、本は紙で読めばいいと思っている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ
感想投稿日 : 2014年8月15日
読了日 : 2014年8月15日
本棚登録日 : 2014年7月30日

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